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牛乳減産「指導」と競争法

全酪農家に生乳減産指導へ 生産過剰で北海道農協中央会 (asahi.com)

牛乳消費の低迷などで過剰になった生乳約900トンが北海道で廃棄処分された問題で、生産計画を立てる北海道農業協同組合中央会などが今年度、道内酪農家 の全7800戸に生産量を一律で減らすよう指導することを決めた。指導は13年ぶり。指導に応じなければ、買い取り価格に一定の「罰金」を盛り込むことが 検討されており、各農家にとって事実上の減産の「縛り」となる。12日に各農協に伝える。

一見、どこにでもありそうな話なんですが、競争法的には興味深い論点を含んでいるので、とりあげてみましょう。

独占禁止法8条
事業者団体は、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。
 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。

「事業者団体」の正確な定義は避けますが、大まかにいうと事業者が自主的に形成している団体のことで、農協なんかの業界団体はその一つの典型です。


こうした事業者団体の活動は、「当該産業に対する社会公共的な要請への対応、消費者理解の増進等多様な目的の下に、教育・研修、情報の収集・提供、政府への要望や意見の表明等種々のものがある」わけですが、その中でも「事業者の事業活動の諸要素のうち、事業者が供給し、又は供給を受ける商品又は役務の価格又は数量、取引に係る顧客・販路、供給のための設備等重要な競争手段である事項について制限すること」や「事業者団体が、新たな事業者の参入を制限し、又は既存の事業者を排除する活動を行うこと」は「市場メカニズムに直接的な影響を及ぼすもの」として独占禁止法上禁じられる可能性があります。
(「」でかこったのは、「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」からの引用です。なお、農協については、独禁法22条で一定の適用除外があるはずなのですが「不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合」や「協同組合等が他の協同組合等又は事業者と共同して、価格や数量の制限等を行うこと」は「適用除外の除外」=「適用あり」ということになるので、以下にあげる問題の所在は変わらないのではないかと思っていますが、農協の生産調整について深く調べたことはないので、ひょっとして特別法で更に除外規定があるのかも知れません。ご存じの方は教えて頂けると幸いです)

こうした事業者団体が一定の「自主規制」を行う場合には、その態様によっては色々と問題が生じます。

このうち「構成事業者が供給し、又は供給を受ける商品又は役務の数量を制限すること」は、原則として独禁法の規定に違反するものとされています。

ガイドラインには、具体例としては、次のようなものがあげられています。

X衛生陶器製造業者団体事件(昭和四八年(勧)第一四号)では、構成事業者の衛生陶器の販売価格を一定額を目途に引き上げること、構成事業者は各自の月別出荷数量を前年同月の出荷数量に一定の率を乗じた数量(割当数量)に制限すること等を決定したことが、法第八条第一項第一号違反とされた。
Yメタノール・ホルマリン製造業者団体事件(昭和四六年(勧)第三六号)では、メタノールの国内向け総販売量及び構成事業者ごとの販売量を決定したことが、法第八条第一項第一号違反とされた。

ガイドラインでは、「数量の制限(2―1)の行為の具体的な形態や手段・方法は多様であり、例えば次のようなものがあるが、数量の制限(2―1)が原則として違反とされるのは、その行為の具体的な形態や手段・方法のいかんを問わない。」とされていますので、今回の牛乳の生産調整も(何か特別法で除外されていない限りは)、形式的には独禁法の規定に違反する可能性があるように見えます。

もっとも、形式的に数量制限に該当しても、今回の生産調整に競争制限効果を上回る社会的な価値を充足するものであれば、違法ではないと判断される可能性もあるわけです。

JAのHPには「JA(農協)は、人々が連帯し、助け合うことを意味する「相互扶助(そうごふじょ)」の精神のもとに、組合員農家の農業経営と生活を守り、よりよい地域社会を築くことを目的としてつくられた協同組合です」とされています。ここにある「組合員農家の農業経営と生活を守り、よりよい地域社会を築くこと」のためになされる生産制限が、独禁法が守るべき「公正かつ自由な競争の促進」とどういう関係に立つのかは、なかなか悩みどころです。

繰り返しになりますが、私自身は農協の生産調整と競争法の関係についてきちんと調べたことがなく、独禁法22条以外に何か特別法による除外があるかも知れないので、今回の生産調整が独禁法の俎上に載ってこない可能性もあります。

ただ、わが国の中での「競争」や「独禁法」の位置付けを考える上では、非常に示唆深い例だと思ったので、自分自身の備忘録をかねて紹介してみた次第です。

Posted by 47th : | 15:54 | Competition Law

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ケースそのものは過去にも聞き覚えのあるものですが、下記記事において、適用除外まできちんと丁寧に書いてあったので、メモしてみました(「独禁法違反」という記事... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2006年04月10日 08:10

コメント

 興味深い論点です。
 僭越ですが、独禁法第22条で農業協同組合法に基づき設立された農協の行為は、原則として、適用除外になってるのではないかと思われます。
 ただし、「不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合は、この限りでない」そうなので、今回の農協の措置が、価格維持が主たる目的であると認定されれば、違法となる可能性もあるのでしょう。
 生産量の制限は、価格維持(上昇)につながる虞もありますが、今回の措置は、生産余剰にある状況下で、且つ、牛乳を廃棄するのが「もったいない」という思想信条に基づいた価格維持を目的とする剥き出しの行為ではなく付随的なものだと思われるので、独禁法上も許容される可能性が高いのではないかと推測します。
 社会的厚生上は、生産余剰でがんがん牛乳が廃棄されようとも、その分牛乳が値崩れして安い牛乳が消費者の手元に届くようになるのであれば、消費者余剰・生産者余剰ともに増すとも考えられますが、そもそも牛乳が価格規制の対象になっているのであれば、この限りではありません。

Posted by Shim : 2006年04月08日 18:05

>Shimさん
仰るとおり厚生損失の観点からは、既に価格規制がなされているのかどうかが一つのポイントですね。でも、牛乳にも色々と価格差やブランドもありますから、どうなんでしょうねぇ。
その上で、競争を促進するのがいいのか、それとも「痛み」のシェアリングがいいのか・・・悩みどころですが、後者の政策が経済的能力ではなく政治的能力にすぐれた者に有利になってしまう可能性やその場合の透明性確保や是正の難しさを考えると、前者に傾きたくなる気持ちもあります。

Posted by 47th : 2006年04月09日 09:19

 
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