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「自主規制」強化と競争法 (1)

昨日に引き続いて業界団体(事業者団体)の活動と競争法の関係するお話です。

上場企業監査、登録制に 会計士協会が自主規制強化 (asahi.com)

日本公認会計士協会(藤沼亜起会長)は6日、上場企業を監査する監査法人や公認会計士の個人事務所に、07年度から登録制を導入すると発表した。一 定の水準に満たない事務所は登録リストから除名し、上場企業の監査を続けることが事実上難しくなる。・・・
 ・・・監査法人の評価などを担当する同協会の品質管理委員会に新組織を設け、上場企業の監査を手がける全事務所に登録を求める。登録事務所には、品質管理体制について文書で提出させ、要求水準に達しているかをチェックする。
 申告した水準の業務を実行できなかった事務所には協会が改善を勧告するが、不十分な場合は除名を含めた処分を出す。
 監査法人や会計士は法律上、上場企業の監査を手がけることに特別な制限はない。しかし、協会の登録から除名されると評価が低下し、投資家の信頼を重視する上場企業の監査からは、事実上排除されるとみられる。

さて、「上場企業の監査水準の向上」は、少なくともそれ自体は社会的にも望ましくみえる目的ですし、現に与謝野金融相も「自分たちの力と判断で運営し、不祥事を少なくしていこうという努力は高く評価したい」「(登録制の)運営を暖かく見守っていかなければならない」と評価しているようです(NIKKEI NETの記事より)

こういう善意に満ちた創意工夫をしようとしているときに水を差すようなことを言うので弁護士は嫌われるんですが、動機としての善意は結果としての善を何ら保証するものではありませんし、ある行動の持つ負の側面を見つめることが社会的にみてより望ましい結果をもたらし得ると信じて、この取組において生じ得る競争法上の問題に触れてみたいと思います。


公正取引委員会の公表している「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」は、「種類・品質・規格等に関する行為」のうち「自主規制等、自主認証・認定等」について、次のように述べています。(本筋と関係ないんですが、公取委の法令データベースをFirefoxで使おうとするとうまくいかないんですよね・・・これって競争法的に宜しくないと思うんですが(笑))

一方、商品又は役務の種類、品質、規格等に関連して、事業者団体が、例えば、生産・流通の合理化や消費者の利便の向上を図るため規格の標準化に係る自主的な基準を設定し、また、環境の保全や安全の確保等の社会公共的な目的に基づく必要性から品質に係る自主規制等や自主認証・認定等の活動を行う場合がある・・・。このような活動については、独占禁止法上の問題を特段生じないものも多いが、一方、活動の内容、態様等によっては、多様な商品又は役務の開発・供給等に係る競争を阻害することとなる場合もあり、法第八条第一項第三号、第四号又は第五号の規定に違反するかどうかが問題となる。また、自主規制等や自主認証・認定等の形をとっていても、当該活動により市場における競争を実質的に制限することがあれば、法第八条第一項第一号の規定に違反する。

 ここで、「自主規制等」と「自主認証・認定等」という概念は次のように整理されています。

  • 「自主規制等」:事業者団体が、正当と考える目的に基づいて、事業者が供給し、又は供給を受ける商品又は役務の種類、品質、規格等に関する自主的な基準・規約等を設定し、その周知・普及促進を行い、又はその利用・遵守を申し合わせ、若しくは指示・要請する等の活動
  • 「自主認証・認定等」:事業者団体が、事業者が供給し、又は供給を受ける商品又は役務が自主的な基準・規約等に適合することの認証・認定等を行い、認証・認定等した場合に事業者にそれを証する表示を行わせる等の活動 

今回の会計士協会の取組みは、上場会社の監査について品質に関する自主的な基準を設定して、その利用・遵守を申し合わせる活動と、それを満たしているかどうかについて「登録」という手段を通じて「認証・認定等」を行う行為のようなので、この両者の複合ということができそうです。

この場合、ガイドライン上は、「自主規制等」が独禁法上問題となるかどうかは、次の3つの観点から判断されることになっています。

  • 競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか
  • 事業者間で不当に差別的なものではないか
  • 社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか

なお、「自主規制等」を定めるにあたっては「関係する構成事業者からの意見聴取の十分な機会が設定されるべきであるとともに、必要に応じ、当該商品又は役務の需要者や知見のある第三者等との間で意見交換や意見聴取が行われることが望ましい」とされています。

今回の自主規制がどのような内容になるかは分かりませんが、競争手段の制限と見られないような配慮が必要になると考えられるところです。ただ、「環境の保全や安全の確保等の社会公共的な目的に基づいて合理的に必要とされる商品又は役務の種類、品質、機能等に関する自主的な基準を設定すること」は原則として独占禁止法違反とならないとされているので、その意味では、上場企業の監査に際しての品質水準を設定することそのものが独占禁止法上問題とされる可能性は低そうです。

問題はむしろ、そうした自主規制の履行を確保するための「登録制」の方ではないかと思われます。

  • 自主認証・認定等の利用については、構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって、事業者団体が自主認証・認定等の利用を構成事業者に強制することは、独占禁止法上問題となるおそれがある。
  • 事業者にとって自主認証・認定等を受けなければ事業活動が困難な状況において、事業者団体が特定の事業者による自主認証・認定等の利用について正当な理由なく制限することは、独占禁止法上問題となるおそれがあり、その利用については、非構成事業者を含めて開放されているべきである。

「自主認証・認定等を受けなければ事業活動が困難な状況」というのは、「例えば、構成事業者の市場シェアが極めて高い事業者団体が、行政指導を受ける等して、商品の品質についての自主認証・認定及び表示の事業を行い、これを需要者に積極的に宣伝しており、需要者にとって当該表示の有無が商品選択の重要な判断要素となっているような場合」とされています。

「市場」の定義にもよりますが、「上場会社に対する監査の提供」が一つの市場だとすると、会計士協会からの登録を受けられなければ、事業活動は困難になるとも考えられるところです。特に「構成事業者に、自主規制等を利用若しくは遵守すること又は自主認証・認定等を利用することを、強制すること」は、当該自主規制等がその内容から競争を阻害するおそれのないことが明白である場合を除いて、独占禁止法違反となるおそれがあるとされています。

その意味では、今回の「登録制」の設計には慎重な配慮が求められそうです。

ところで、競争法から少し離れますが、会計士協会が認証して登録した会計士が粉飾に関与した場合の民事的な責任という観点からも少し注意が必要です。「登録」に対する社会的信頼をつくるということは、本来「登録」されるべきではない者を登録させてしまった場合には、虚偽の社会的信頼の作出に(過失で)協力したといわれる可能性もあります。
社会的信頼の作出には相応の責任が伴うわけで、その辺りについても、実際の制度設計にあたっては検討が必要でしょう。

・・・というわけで、もっぱら公正取引委員会のガイドラインを中心に自主規制・自主認証に伴う競争法上の問題を見てきたわけですが・・・そもそも、一見社会的に望ましいこうした「自主規制」に対して何故競争法が神経質になるのか・・・という辺りについては次回に。

Posted by 47th : | 11:23 | Competition Law

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コメント

こんにちは。
たいへん鋭い分析で、興味深く拝読いたしました。私は「そうなんだぁ」と簡単に読み流しておりましたが、競争法的にはこういった問題が横たわっているんですね。とくに「認証(登録)」に関しては、私も慎重な配慮が必要だと思います。ただ、この制度、最初に市場参加者全員に「登録」が認められるために「締め出し」といった趣旨がみられないことや、そもそも金融庁の大きな監督規制権限のあるところに、自主規制を持ち込んでいるあたりで、なんとかクリアできるのではないかなぁ・・などと思ったりしております。
最後のところの問題点は、まさに弁護士会が「専門弁護士」を認定する議論でも同じでして、弁護士会が責任を負担することをおそれて前に進まないのが大阪の現状です。(あんまりしゃべるとまた執行部から怒られそうなんで、このへんで・・・)

Posted by toshi : 2006年04月10日 23:54

「登録制」や自主規制に対する分析、大変参考になります。
私としては、独禁法に触れるかどうかはさておき、このような「登録制」を引いた時に、

>本来「登録」されるべきではない者を登録
>させてしまった場合には、虚偽の社会的
>信頼の作出に(過失で)協力したといわれる
>可能性もあります。

という部分において、今の日本での「事が起こったら全てアウト」というような風潮がある現状では、リスクを取るには大きすぎるのではないかと感じています。(恐らくtoshi先生がご指摘の部分もこのような危惧に関連しているのではないでしょうか?)

とはいえ、私のフィールドである社労士の場合には法律で「特定社労士」なるモノが出来たりしていますので、一概には言えないのかもしれないですが・・・(^^;;

Posted by Swind@立石智工 : 2006年04月11日 05:40

>toshiさん、Swindさん
コメントありがとうございます^^
自主規制機関による認証と法的責任の問題というのは、規制緩和の中で問題となる余地が大きくなっていくような印象を持っています。
余りにも無責任だと、今度は認証が本来狙っている「社会的信用」を失うでしょうし、逆に厳しくし過ぎると、実質業界内での相互保険になってしまいますしねぇ(それはそれでワークするのかも知れませんが)

Posted by 47th : 2006年04月11日 17:53

 
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