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共同買付者と167条

ワールド・カップネタにうつつを抜かしている間に、村上氏は起訴に至ったようです。朝日新聞の記事を見ていても、検察のストーリーというのは、村上氏がLDを引き込んで「一緒にニッポン放送株式を買おうじゃないか」、と、けしかけたという話のようです。

このストーリーに関する?なところは、磯崎さんが素晴らしい整理をされていますんで、そちらをご覧頂くこととして、前から気になっている「共同買付者に対する167条の適用」について、余りブログ向けのネタでもないだろうと思って積み残しにしていた非常にテクニカルな点について見ておきましょう。

というわけで、以下の議論は、いつものようなローエコとかではなく、極めて実務家的なテクニカルな条文解釈の話ですので、興味のない方は、また明日ということで、法律家のやるテクニカルな条文解釈というのは、どんなものなのか怖いもの見たさと思う方は、続きをどうぞ。


「共同買付者」ってなに?

そもそも、これまで「共同買付者」という言葉を、さらっと使ってきたわけですが、厳密にいうと「共同買付者」という用語は証取法の用語としては存在していません(同じような用語でも「共同保有者」や「特別関係者」という用語は明確に法律上に定義が存在しています)。
では、この言葉がどこから来ているかといえば、証取法施行令31条です。
そもそも、証取法167条は「公開買付け」に関する情報を対象とするインサイダー規制ですが、同条では「公開買付けに準ずる行為として政令で定めるもの」も対象に含むこととしています。
この「政令」が証取法施行令31条になるわけですが、これは以下のように規定しています。

・・・公開買付けに準ずる行為として政令で定めるものは、・・・株券等・・・を買い集める者(その者と共同して買い集める者がいる場合には、当該共同して買い集める者を含む。以下 この条において同じ。)が・・・買い集める当該株券等に係る議決権の数・・・の合計が・・・百分の五以上である場合におけ る当該株券等を買い集める行為(以下この条において「買集め行為」という。)とする。

この括弧書きに書かれている「その者と共同して買い集める者」のことを、「共同買付者」と呼んでいるわけです。
どのような場合に「共同して」と言えるかは、手元に文献がなく余りはっきりとしたことは言えないのですが、「一緒にある上場会社の株式を買い集めよう」ということで、相互の意思の連絡の下で買付がなされるのは、一つの「共同して買い集める」典型例ということになるのではないかと思います。

というわけで、一つめのポイントは、村上氏とLDとの間に、こうした意味での「意思の連絡」はあったのかということです。これは事実認定の問題になりますが、検察が「村上氏とLDは相互に密接に連絡をとりあっていた」ということになると、自然と、この意思の連絡は認められやすくなります。
この辺りは、具体的な証拠関係を見ないと確定的なことは言えないのですが、今回は刑事事件ですから、弁護側が検察側の提出した証拠を下に「両者は意思の連絡の下に買付を行ったのであって、施行令31条に定める共同買付者に該当する」ということについて「合理的な疑い」を差し挟むことに成功したことを仮定して考えてみます(※)。

買付者自身の買付は167条違反?

「共同買付者」について考える前に、単独での買付行為について、まず考えてみます。
今、Xが上場会社甲の5%以上の株式の買付を機関決定したとしましょう。
この時点で、Xは施行令31条を通じて、証取法167条1項(※2)における「公開買付者等」になるわけですが、この場合に、会社(X)が(※3)先行して甲株式を少しずつ買いあつめることは167条に違反するでしょうか?

もしだめだということになると、5%一気に買い付ける行為以外は167条インサイダーにひっかかってしまうという話になってしまいます。つまり、一度5%以上の買付を決定した場合には、まずその決定したことを公表しないと買い集め措置をとれないということになってしまうわけです。
ですので、167条では、買付を決定したX自身による買付行為は当然に除外されると読めればいいのですが、実は、同じような条文構造を持っている166条(発行会社情報インサイダー)では、会社自身は除外されないと考えられています。
例えば、上の例で上場会社甲が実は他社の買収を決定しているのに未公表のまま自己株式買付を行えば、それは166条インサイダーにひっかかると考えられています(※4)。

このことからすると、167条インサイダーでも、買付を決定した会社自身による買付行為がインサイダーにひっかかるというのは、条文解釈的には不可能ではありません。
また、これは「5%以上の買い集め」行為ではなく167条が本来予定している「公開買付け」の場合を念頭に置くと必ずしも的外れな話ではありません。つまり、「公開買付けをひとたび決定した以上は、公開買付以外のルートで株式を買いあつめることは許さない」という規制であると考えれば、一応辻褄はあいます(※5)。

その意味では、こういう解釈は文理上不可能ではありませんが、これがこれまでの日本の証券取引の実務感覚と合致しているかというと大いに疑問ですし、最初の例のように、公開付けではなく、公開買付け類似行為として規制されている「5%以上の買い集め」にまで適用されてしまうと、かなりおかしなことになってきます。

本人買付者と共同買付者は区別可能

では、実務上の混乱を避けるために、単独買付者の場合には167条の規制は買付者自身には及ばないという解釈を採りつつ、共同買付者による買付はインサイダー規制違反となるという解釈をとることは可能でしょうか?

・・・まあ、「趣旨から」とか理由にならないような理由をつけて区別する判決文は書こうと思えば書けるわけですが、上に紹介したように施行令30条の書きぶりは「共同買付者がいる場合には、共同買付者も含めて一個の買付者として取り扱う」という書き方をしているわけです。

つまり、XとYという2つの法人があって、これらが共同買付者であるとすれば、施行令30条はXとYという法人枠の垣根をとっぱらって、XYという一体の人格としてインサイダー規制を適用すると言っているわけです。

このときに、Xという単独の人格の場合には167条で規制されないけど、XYという合成された人格の場合には規制対象になるという解釈は、167条の文言からすると非常に難しいわけです。

というわけで

何が言いたかったかといえば、「仮に村上FとLDは共同買付者の関係にあったとしても、167条インサイダーに該当する」という法律構成をとることは、以前から指摘しているようにファンドによる協調買付を禁止するのみならず、文理的には、「5%以上買い付けることを決定したファンドが、その事実を公表せずに買付を行うこともインサイダー規制に該当する」という解釈にもつながってくるわけです。

こういう解釈は実際にM&Aや証券取引に携わっている人間にとってはナンセンス以外の何者でもないわけですが、この感覚がどこまで共有されているのかが、何か非常に怖いと思うところで・・・その意味で村上さんの公判の行方そのものよりも、検察のとる理論構成が非常に気になるわけです。
 

(※)これまでの村上氏の発言の方向性や、当時の大量保有報告書において互いに共同保有者として取り扱っていないという行動との平仄からすると、Just guessですが、弁護側が争うとすれば、「村上氏は宮内氏の発言がLD内での「決定事実」であるとは認識していなかった」という方向を主位的にしてくるのではないかという気がします。その上で「予備的」に、たとえ検察主張の事実のとおりだとしても、ということで、共同買付者に関する議論を持ち出すんではないかという気がします。
もっとも、ひたすら執行猶予狙いで罪状については争わないという可能性もあると思いますが。

(※2)証券取引法167条1項

次の各号に掲げる者(以下この条において「公開買付者等関係者」という。)であつて、第二十七条の二第一項に規定する株券等で証券取引所に上場されている もの、店頭売買有価証券若しくは取扱有価証券に該当するもの(以下この条において「上場等株券等」という。)の同項に規定する公開買付け(同項本文の規定 の適用を受ける場合に限る。)若しくはこれに準ずる行為として政令で定めるもの又は上場株券等の第二十七条の二十二の二第一項に規定する公開買付け(以下 この条において「公開買付け等」という。)をする者(以下この条において「公開買付者等」という。)の公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の 中止に関する事実を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実の公表がされた後 でなければ、公開買付け等の実施に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る上場等株券等又は上場株券等の発行者である会社の発行する株券若 しくは新株予約権付社債券その他の政令で定める有価証券(以下この条において「特定株券等」という。)又は当該特定株券等に係るオプションを表示する第二 条第一項第十号の二に掲げる有価証券その他の政令で定める有価証券(以下この項において「関連株券等」という。)に係る買付け等(特定株券等又は関連株券 等(以下この条において「株券等」という。)の買付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)をしてはならず、公開買付け等の 中止に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る株券等に係る売付け等(株券等の売付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条に おいて同じ。)をしてはならない。当該公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実を次の各号に定めるところにより知つた公開買付 者等関係者であつて、当該各号に掲げる公開買付者等関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする。
当該公開買付者等(その者が法人であるときは、その親会社を含む。以下この項において同じ。)の役員等(当該公開買付者等が法人以外の者であるときは、その代理人又は使用人) その者の職務に関し知つたとき。
(以下略) 

(※3)日本の刑事法では、法人は直接に犯罪行為を行うことはなく、あくまで自然人が犯罪の主体となるという構造をとっています。ですので、ここでは「会社が」と言っていますが、実際には、会社の命令で取引を行った役員・従業員の刑事責任が問題となります。

(※4)これを避けるために、自己株式の市場買付は信託や証券会社に委託されることが通例ですが、本筋とは関係ないので、ここでは省略しておきます。

(※5)まだ調べている途中なのですが、アメリカで公開買付情報に基づく取引を規制する14e-3という規則の制定の際には、公開買付者自身も対象にすべきではないかという議論がなされたようです。但し、最終的に、SECは、公開買付者自身による買付は、正式に公開買付けが開始されるまでは制限されないという立場をとったようです。

Posted by 47th : | 23:31 | Securities

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コメント

最近拝見させていただくようになりました。

>実は、同じような条文構造を持っている166条(発行会社情報インサイダー)では、会社自身は除外されないと考えられています。

とのことですが、
例えば資本提携(5%超)を伴う業務上の提携をするにあたり、相手会社の株式を市場で少しずつ取得していき、ある程度のところ(5%近く)で対外発表するというのは大丈夫なようです。

166条1項四号の文言を見ると会社自身も会社関係者になってしまうのかと思っていましたが、「実務の考え方」としては会社自身による取得はO.K.と、その方面の弁護士から聞きました(167条の方も含めて)。違うことを言う証券会社もあったりするのですが。

青林書院の神崎等「証券取引法」でも、166条の方の箇所で、現行の証券取引法では、会社は会社関係者とは規定されていない、とあります。
もっとも、誰の計算でなされるかは問わないので役員や従業員を規制しておけば(会社の計算で取引すればインサイダー取引に該当するから)弊害は問題とならない、ともいっています。
(←計算だけじゃなく名義も会社の場合が問題となるはずで、ちょっと違うんじゃないかと思ったりしますが)

いずれにしても実務上ぶつかった問題に対してとても勉強になりました。ありがとうございました。

Posted by 無名法務人 : 2006年08月09日 01:43

>無名法務人さん
マニアックな話題に反応していただきありがとうございます^^
インサイダー関係の条文の読み方には色々な余地がありますが、少なくとも自己株式取得との関係では、会社自身の取得(といっても実際には刑罰法規である166条では法人自身の行為は観念されないので会社のために役員・従業員が行った取引ですが)がインサイダー規制に該当する可能性があることをベースとして例外規定が設けられたりしているので、その意味では理論的には会社自身がインサイダー規制に該当する可能性は否定できないのだと思うのですが、従来は、「規定の趣旨」や「従来の慣行」をベースに、「実務における線引き」をしてきたわけで、私も今回の事件の前であれば、ご相談された弁護士さんと同じようなアドバイスをすることに余り迷いはなかったと思います。
問題は、そうした「実務における線引き」と同じ感覚を今回ライブドアと村上氏を逮捕した捜査当局が共有しているのだろうかという不安で、この辺りは、今後色々と注視しなくてはいけないのだろうというのが、今回のエントリーの趣旨でした。
こうしたマニアックな解釈論は余りブログではやらないのですが、また機会があれば是非遊びに来てください。

Posted by 47th : 2006年08月10日 10:22

 
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