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新薬の開発と特許の範囲

Drug Patents Don't Bar Rival Research (New York Times)

Drug companies have freedom under the Food and Drug Administration rules to ignore their rival's patents when starting research on competing medications, the Supreme Court ruled Monday.

新薬の研究段階で競合する既存薬品の特許ライセンスを得る必要がないという、この判決自体の位置付けや合理性について考えるほどのネタはないのですが、この記事で興味深かったのは次の点です。


Backing Merck were the Bush administration and the AARP, which say drug prices will skyrocket if patent protections are tightened at the expense of research. In the last decade, consumer spending on prescription drugs has quadrupled from $40.3 billion to $162.4 billion.

最高裁判事が政治的考慮をしたという意味ではないのでしょうが、この判決の背景として薬の価格高騰問題と、ひいては社会保障問題があるというのが、いかにもアメリカ的なところです。但し、この部分でのライセンス料がとれなくなるとすると、①新薬への投下資本回収期間が短縮化されるのに見合った分だけ薬の値上げがなされる、②(そうした値上げができなければ)小規模の製薬会社は新薬開発事業から撤退して市場の寡占化が生じる、③そもそも新薬開発のインセンティブが弱まる・・・といった、薬価削減効果をオフセットする効果も予想されるので、これでブッシュ政権が期待した方向に行くかは微妙なのですが・・・
あと、この記事によると、FDAルールの解釈にあたって立法当時の立法者意思に基づいて判断を下した巡回裁判所の判断を覆したということで、ひょっとしたらと思って、ちょこっと見てみると、オピニオンをかいたのはScaliaということで、Scaliaファンの方々のツボに入りそうなところをさわりだけ。。。

Though the contours of this provision are not exact in every respect, the statutory text makes clear that it provides a wide berth for the use of patented drugs in activities related to the federal regulatory process.
As an initial matter, we think it apparent from the statutory text that § 271(e)(1)'s exemption from infringement extends to all uses of patented inventions that are reasonably related to the development and submission of any information under the FDCA. Cf. Eli Lilly, 496 U.S., at 665-669 (declining to limit § 271(e)(1)'s exemption from infringement to submissions under particular statutory provisions that regulate drugs). This necessarily includes preclinical studies of patented compounds that are appropriate for submission to the FDA in the regulatory process. There is simply no room in the statute for excluding certain information from the exemption on the basis of the phase of research in which it is developed or the particular submission in which it could be included.

Posted by 47th : | 12:57 PM

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コメント

薬はちょっと専門なのでひとこと。この中で問題になっている§271(e)(1)というのは、元々は、いわゆる新薬ではなく、後発品と呼ばれる、特許切れの医薬品を非特許権者が製造・販売するに当たり、特許切れ前に臨床試験することを可能にするものとして位置づけられていたものだと思います。つまり、特許切れと同時に安価な製品が売り出されるのは、社会的な利益になるので、臨床試験は特許権侵害の例外として認めようと言うことです。ところが、今回の事例では、そもそも、後発品の開発ではありませんでした。そこで話が少し複雑になっているようですが、
http://patentlaw.typepad.com/patent/2005/06/merck_v_integra.html

とそのリンクに詳細な解説があります。
従って、①~③のご懸念は後発品に関する限り、既に織り込み済みです。むしろ、問題なのは製薬企業間の競争ではなく、研究試薬等を提供する会社で、彼らにとって死活問題になる可能性があったのですが、今回のopinionの中ではそのことについては、全く触れてないようです。

長々と失礼しました。

Posted by GEN : June 14, 2005 08:17 AM

>GENさん
ありがとうございます。


元々は、いわゆる新薬ではなく、後発品と呼ばれる、特許切れの医薬品を非特許権者が製造・販売するに当たり、特許切れ前に臨床試験することを可能にするものとして位置づけられていた


その立法趣旨に拘束されるかどうかというところで、Scalia節(文言にはそんな制約はない)が冴えたということなんでしょうね。



問題なのは製薬企業間の競争ではなく、研究試薬等を提供する会社で、彼らにとって死活問題になる可能性があった


ちょっと、不思議なのは、試薬会社が利益をあげるためには、ライバル会社がライセンスを直接受けるよりも、試薬会社から買う方がコストが安いという前提がないと成り立たないように思えるのですが。。。それとも、試薬開発専門でやっている会社があるということなんですかね?


Posted by 47th : June 16, 2005 12:45 PM

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