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夢真のTOB条件公表

しばらく電話から電話線を抜き差しして通信という前時代的ネット環境の実家に帰っていたので、世の動きから取り残されていましたが、ようやく無線LAN環境に復帰してPDFなんかも読めるようになりました。
というわけで、もうご存じの方も多いと思いますが、夢真の公開買付の条件が公表されました(「当社の日本技術開発株式を対象とする公開買付の条件について」参照)。
今朝の日経に公開買付公告も出ていましたが、結局、日本技研の発表した株式分割に対抗するために当初買付価格を株式分割による希釈化後の水準(予定買付価格である550円の5分の1=110円)に設定するという手法が選択されました。
前回のエントリーで、「もうちょっとリスクの少ない方法もある」とか、ちらりとほのめかしたりしたのですが、この買付価格を希釈化後の水準に設定した上で、買収防衛策が解除されたら買付価格を上げるとアナウンスするという手法が「それ」だったわけで、やはり、いくら何でも徒手空拳で正面突破ということを考えていたわけではなかったようです。
また、夢真が7月19日に公表した「日本技術開発の株式分割決議に対する当社の対応について」を見ると、夢真は日本技研の9月の定時株主総会に向けて委任状勧誘も行うということですから、その意味では(実質的な)条件付公開買付を実施して経営権取得に向けてのコミットメントを示しつつ、委任状勧誘で現行経営陣の刷新を図るという、米国では「王道」的な買収戦略と見ることができそうにも思えるのですが・・・一点だけ、非常にイレギュラーな点があります。


もったいぶる話ではないんですが、米国的なプラクティスから見て非常にイレギュラーなのが、夢真の公開買付の基本的な戦略は予定買付数を発行済株式総数の52%相当とした上で、この予定買付数を超える数は買付をしないという点です。
この点について、夢真のプレス・リリースでは次のように述べられています。

日本技術開発は、当社が本件公開買付けにより取得する株式の上限が日本技術開発の総議決権のうち51.59 パーセントであることのみをもって、本件公開買付は「株主の皆様の自由な判断を阻害するおそれのある強圧的な部分買付け」であると決め付け、全く根拠のない一方的な主張を行っています。
しかし、当社は、日本技術開発の総議決権のうち51.59 パーセントまで取得した後に、さらなる買付を行うこと(すなわち、二段階買収等)は一切予定しておりません。当社は、日本技術開発を当社の連結子会社とした後にも、上場を維持し、一般株主の声に真摯に耳を傾けなければ経営を行うことができないガバナンス体制を維持することを通じて、企業価値の向上を図っていく所存です。

ただ、一方では夢真が公表している「企業価値向上へ向けた 企業価値向上へ向けた提携の検討資料」では、単なる大株主というに止まらず日本技開をグループのコアの一つとして位置づけることを考えているようにも見えます。
そういう意味では、ちょっと釈然としないものを感じるのは確かです。
まあ、その辺りは経営戦略の問題なので、夢真さんなりの深謀遠慮があってのことかも知れないのですが、私が日本技開の株主の立場だったら、次にあげるような点がやっぱり気になってしまいます。

  • 公開買付公告やプレス・リリースの中での「方針」には、何らの拘束力もないこと。
    つまり、後で夢真さんが「気が変わって」上場を廃止したり、株式交換をすると言い出すことについては、何ら歯止めはきかないわけです(評判による歯止めはあり得ますが、今回のような文脈で、どの程度有効かは「?」な気もします)。もちろん、その際の価格や交換比率が、公開買付と同水準であるという保証もないわけです。
  • 子会社から親会社への利益移転について、日本の会社法は有効な歯止めを有していないこと。
    これは、ドイツのコンツェルン法などと比較して、よくいわれることですが、日本は子会社の少数株主保護のための法的ツールが乏しいため、親会社と子会社の利益が相反する局面で親会社の利益が優先される可能性があると言われます。そういう意味では、夢真と日本技研がグループ化するこによってグループ全体としてシナジーが生まれることと、日本技研単独として従来よりも株主価値が向上する保証はないわけです。

・・・というわけで、もし(疑り深い)私が株主なら、夢真さんによる公開買付成功後に日本技研株を公開買付価格以上の価格で処分できるかどうかと言われれば、結構ネガティブな印象を持つかも知れません・・・ということは、公開買付価格でさっさと、できるだけ多くの株を処分してしまった方がいいと思ってしまうかも知れません。
・・・と、部分的公開買付がなされることで、こういう具合に公開買付に応募するインセンティブが生じてしまうとすれば、米国で言われるところの「強圧的」(coersive)な要素は、やはりあると言わざるを得ないようにも思われます。
今後の展開はいかんとも読み難いのですが、日本技研としては、夢真の公開買付の有するこうした強圧性を主張して、買収防衛策を維持あるいは追加しつつ、他方で、夢真が全株式に対する公開買付や買付に応じなかった株主に対して事後的なキャッシュアウトの機会の確保(公開買付終了後の公開買付価格による自己株式TOBの実施等)を合意した場合には、公開買付を認めるという硬軟両面の対応をしていくという道があるような気がします。
逆に言えば、夢真にとっても、委任状勧誘で勝利するにあたって、この「部分的買付」という部分がアキレス腱になっていくことも考えられます。
いずれにせよ、夢真のプレス・リリースの仕方には賛否両論もあるのでしょうが、今までの日本では見られない、こうしたオープンな形での舌鋒鋭い議論の応酬は、投資家にとっては論点を明確化する上でも有用な気もするところで、野次馬的な更なる論戦を期待したいところです^^

Posted by 47th : | 11:51 PM

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コメント

こんにちは。たいへん参考になるお話、ありがとうございます。夢真から「550円を110円に下げる」というリリースがあった瞬間、47thさんの「もうすこしリスクが少ない方法がある」とおっしゃっていたのを思い出し、(その時点で)さすが、と感服いたしました。
今朝の読売新聞や読売ネットなどでは、金融庁の判断に注目される新たな争点や、司法判断の可否に関する争点など、今後の防衛策導入にあたってたいへん重要と思われる検討課題がありそうで、また自分のブログのほうで問題をまとめてみたいと思っています。野村教授あたりも、堂々と「株式分割は防衛策として有効!」と発表されておられるみたいですし・・・

Posted by toshi : July 20, 2005 10:12 PM

>toshiさん
私の同僚弁護士も事前警告型の防衛策の設計をやっているので、余りおおっぴらに防衛策破りの手法をブログに書くのはまずいだろうと思っていたのですが、まあ、M&Aに精通した弁護士が知恵を絞れば、何れは行き着く手段の一つですよね。
実は、他の防衛策も、それなりにつけいる隙があるので、今後、そうした「隙」を積極的に衝く買収戦略というのは現れてくるのかも知れませんね。

Posted by 47th : July 21, 2005 01:32 AM

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