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上場廃止と投資者保護

ニューヨークは記録的な大雪です。 

今週はAntitrustの授業でのプレゼンや、ちょっと片付けなくてはいけない仕事もあるので、元々外出をする予定はなかったのでいいのですが、歴史的な暖冬から一転、歴史的な大雪というのも、何というか恐いものです。

というわけで、ヘビーなエントリーもお休みですが、ちょっと気になったのでクリップだけ。

ライブドア株、粉飾固まれば上場廃止へ・東証方針 (NIKKEI NET)

この記事によると「ライブドア前社長の堀江貴文容疑者らが証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で起訴されるか、証券取引等監視委員会が同容疑で告発すれば上場廃止を決める方針」ということになっています。

昨年のカネボウの時にも問題となりましたが、上場廃止というのは、株式の流動性を奪ってしまうわけで、理由が粉飾のような場合には、粉飾の被害者である株主に対して、さらに鞭を打つことにもなりかねません。

それでも、場合によっては、取引所に対する全体的な信頼を確保するために、厳しい措置も必要になります。

ただ、そうだとしても、報道されているとおりだとすると、2つの点で釈然としないものは残ります。 

一つめは、何をもって上場廃止のトリガーと考えるかというところです。

報道の中での言葉のあやなのかも知れませんが、「起訴」又は「告発」をトリガーとするということは、捜査機関の判断を基準として受け入れることを意味しています。
私は、刑事裁判において有罪が確定するまで待たなければならないというつもりはありません。刑事裁判において無罪とされても、それは無実であるとは限りません。その意味で、東証が、投資者保護という観点から、自らの判断基準を確立して、それに沿ってサンクションを課すことそれ自体はあり得る選択肢だろうと思います。

ただ、それは東証自身が得た証拠や資料に基づいて、サンクションを課することが適切だと判断した場合の話です。東証が、どのような形で事件についての情報を獲得・整理しているのかは分かりませんが、単に捜査機関の判断(結論)を受け入れるだけだとすれば、それが、取引所に対する信頼を確保することになるのか疑問が残ります。

もう一つの点は、取引所によるサンクションの究極の目標は、投資者の保護であり、それには「被害者」である問題企業の無辜の株主の救済と、取引所全体に対する公正さへの信頼の保護という2つの面のバランスが必要ではないかというものです。
捜査機関は、(少なくとも建前としては)、法に従って罪を摘発し罰を科すことが仕事であり、その結果生じる複雑な社会的影響を考慮すべき立場にはありません。しかし、取引所がサンクションを課すのは、法的な罰を社会的なサンクションで補充する(法的な罰を受けている者に、更に石を投げる)ことではなく、その事件が究極の顧客である投資家に対して及ぼす副作用をコントロールするためです。

例えば、過去の罪について上場企業が自ら厳しい内部処分やガバナンス体制の構築を求める一方で、その高いハードルを満たす限りにおいて、上場を維持させ、責任ある企業としての再生をバックアップすることが、その企業の無辜の投資家の救済と取引所全体に対する信頼を維持するために望ましい場合もあるのだろうと思います。

ライブドアの件について、最終的にどういう判断を行うかはともかく、東証に求められるのは、過去の事実と現在の状況に対する証拠(資料)による認定と、それを踏まえた上での将来のあるべきバランスを考慮した対処であるべきではないでしょうか。
東証には、「市場の管理者」として、捜査機関にはない「柔軟性」を生かした対応をして欲しい・・・まだ、最終的な結果は分かりませんが、上の新聞記事を読んで、そのようなことを思ったりしました。


Posted by 47th : | 04:50 PM

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このリストは、次のエントリーを参照しています: 上場廃止と投資者保護:

» 判断基準:「責任ある意思決定」が出来る前提条件は? from コンサルタントのネタモト帳+(プラス)
ライブドア事件では「疑惑のメール問題」に報道が集まってしまっていますが、そんな中、本筋の話題についても動きが見られます。昨日から今日にかけて、東証の社長が... [続きを読む]

トラックバック時刻: February 21, 2006 09:31 AM

コメント

初めていった時のNYが結構雪が降ってまして零下20度ぐらいと教えられてびっくりしたのですが、その割りに寒くなく・・・乾燥してるかしてないかの違いかなあとも思ったのですが、なんかこの写真のNY、趣がありますねえ。
ところで、本件については、何の脈絡もないといえばないのですが、上場廃止のトリガーを握る東証が、仮に取引企業との関係で期限の利益喪失条項を根拠に期限の利益を喪失させる金融機関と立場的に同じ程度の権限を有するとしても、金融機関が(特にメインバンクが)自己の行為による信用不安の惹起を一応気にして同条項を理由としたボタン押しには謙抑的であることにくらべると、結構簡単にボタンを押すもんだなあと思った次第でございます。金融機関以上の権限を持ってるってことなんですかねえ。

Posted by ろじゃあ : February 13, 2006 06:34 AM

結局カネボウのほうは、
・アドバンテッジパートナーズ
・MKSパートナーズ
・ユニゾン・キャピタル
の3ファンドが取得になり。
個人投資家の株はTOBされるようですね。

Posted by grande : February 13, 2006 08:00 PM

 すごい雪ですね^^;。。
 足元にはくれぐれも気をつけてください。

 ろじゃあさんへ横レスですが:
 雪が降ると、体感気温が上がるそうです。
 科学系の雑誌で読みました。

Posted by Taejun : February 14, 2006 07:23 AM

>ろじゃあさん
言われてみれば、似たようなところがありますよね。
力を持つ者は、その力が必要以上に苛酷な結果をもたらさないように細心の注意を求められるはずで・・・何だか、今回の件では、ウルトラマンが怪獣を倒した後に、逃げ遅れた人の屍が累々と積み重なっているような印象を受けてしまうんですよね。
>grandeさん
ありがとうございます。
今回の場合も、何とか適正な対価でのエグジットの途が見つかるといいんですが・・・
>Taejunさん
融雪剤のせいか、本当に滑りやすいんですよね。
気をつけます^^

Posted by 47th : February 14, 2006 06:24 PM

大鹿靖昭(アエラ編集部記者), 「万引き」で「死刑宣告」, 一冊の本 2006/3 ( 当該号の情報 ), 朝日新聞社 から引用します。
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(引用者註 前段では自社他社の記事について間違いを指摘。その後、投資組合関する商法の扱いや、騒がれている企業買収が法的に公表すべき案件であったかに触れている)
(引用者註 山一や鐘紡と違い)粉飾のレベルも大したモノではない。.... ライブドアは.... 万引きで死刑宣告を受けたようなものだ。検察は .... (引用者註 切込隊長『中央公論』論説 で引用されているような?) 暴力団マネーや堀江の脱税なども是非立件すべきである。そうでないと二十二万人の投資家の七千億円の損失と東証の全面ストップという代償が報われない。だいたい、一国家公務員の検察官が「額に汗して働く人、リストラされ働けない人、違反すれば儲かると分かっていても法律を遵守している企業の人達が、憤慨するような事案を万難を排しても摘発したい」 (大鶴基成特捜部長による。 次は引用者による追加 see 『闇の不正と闘う』 は同種の発言) と、人々のモラルのありようまで踏み込む資格があるのか。法令違反を検挙するのが検察の仕事であり、人々の規範意識まで踏み込むのはノリを越えている。
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特捜はまさしく佐藤優さん流の「国策捜査」を行なう所なんだなとの感想を持ちましたが。あと新井白石好きの田沼意次嫌いと言いますか。

また、前からこの広告誌はまともだと思っているのですが、他の朝日新聞の媒体程は話題にならないのは入手が少々面倒だからなのかもしれません。

補足: 今回の件で私が問題にしたいのは、「けしからんものはけしからん」という素朴なトートロジーで、後先考えずに突っ走りすぎではないかという事です。出発点はそれでも構わないと思いますが、尼崎にしても姉歯にしても、テクニカルな議論を経ずにそのような形で衝動買いされているだけでは、一体何がダメだったのかが整理された形で社会に蓄積されないだろうと。とはいえ、そのような議論が出来るのかは良く分かりませんし、 LD に憤慨する人には「確かにけしからんけどね」位しか言っていませんが。

Posted by 小僧 : March 1, 2006 09:24 AM

>小僧さん
いつも有益なリソースを教えてくださってありがとうございます^^

>今回の件で私が問題にしたいのは、「けしからんものはけしからん」
>という素朴なトートロジーで、後先考えずに突っ走りすぎ
>ではないかという事です・・・
>テクニカルな議論を経ずにそのような形で衝動買いされて
>いるだけでは、一体何がダメだったのかが整理された形で社会に
>蓄積されないだろうと。

全くもって同感です。
特にLDの事件では、そもそも証券市場や経済活動に対する反発まで入ってきているようにも見えますし・・・私は陰謀論はきらいですし、余り信じていないのですが、陰謀家でありたい人たちにとっては、実においしいんだろうなぁとは思います。

Posted by 47th : March 2, 2006 07:37 PM

とはいえ、建築偽装事件についても「耐震偽装」 asin:4532352088 ですとか、専門雑誌「建築知識」 (ホームページは http://www.kenchi.com/ ) の短期連載などいくつか出ているのですが、そういう事は本屋を少々眺めているだけでも分かる訳です。しかしながら、そういう吟味と整理された知識との解離が大きい記事が散見されているのは大丈夫なんかと。言い替えると「俺の話を聞け」との記事が多くて、そこまでしないと紙面が埋められないのかなと。
こういう状態で「総表現社会」と言われても....

Posted by 小僧 : March 7, 2006 11:12 AM

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