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コントロールとキャッシュ・フローの分離雑考(イントロ)

今週は金曜日にMPREなるBar関係の試験があるのと、来週月曜日はコーポレート・ファイナンスの2回目の試験があるので、ちょっと重い記事を書く時間はなさそうなんですが、紅の牛さんの「市民球団が危ない」と磯崎さんの「タイガース上場(等)と種類株式の活用(「多様なガバナンス」の可能性)」で種類株式を使った球団上場の可能性について触れられていたので忘れないうちに、この問題について、考えなきゃいけない話を五月雨式にメモしておきましょう。

ベンチャー・ステージと公開会社での意味の違い

ベンチャー・ステージで種類株式を使ってキャッシュフローに対する権利割合とコントロールに対する割合を変えるというのは、特にアメリカでは珍しい話ではないんですが、ここでは議決権を有しない(or少ない)資金提供者は、非常に洗練された少数の投資家や金融機関が想定されているので、予めどういう状況が生じた場合にはコントロール権が復活するかとか、どういう行動規制を加えるかということについて、契約でかなりきちんと合意しておける状況があります。なので、「コントロール権がない」というのは、予め当事者が合意した範囲や条件の下でベンチャー起業家の経営に干渉しないことを意味するだけで、経営状況とかについての情報はちゃんと入手できるし、ある条件にひっかかればコントロールを奪ったり、とりわけ追加資金の調達なんかについては拒否権を有したりといった形で「無議決権投資家」も実質的に自分の権利を守る手段は持っているわけです。


この点で、公開会社では、「無議決権投資家」として想定されるのは、分散した株主層で、情報収集・意思決定のコストを考えると会社経営に関心を持たない方が合理的という「集合行為問題」を抱えた人たちになります。
つまり、ベンチャー・ステージと違って、予め詳細な契約で起業家の行為にしばりを与えておくことも難しいし、仮にそれができたとしても、日々情報を収集して、契約に規定されたトリガーが成就した場合にはコントロール権を剥奪して状況を改善するといったアクションをとることは、ますます期待できません。
その意味で、コントロールとキャッシュ・フローの分離というテーゼそのものは目新しいものではなくても、公開会社とベンチャー・ステージでの利用の意味はかなり違うような気がします。
この辺りは、森田さんのセキュリティ・デザインの話なんかを、ちゃんと勉強しないといけなさそうです。

グーグルの場合~IPOとmidstream~

磯崎さんが指摘しているように、グーグルなんかはIPOの時に複数議決権株式を使って、コントロールとキャッシュフローを分離していますし、シリコン・バレーの新規公開企業の多くが、多かれ少なかれ期差任期取締役会の採用なんかも含めて経営陣のコントロールを保持する傾向が強い状況になっています。
というわけで、IPO時には経営陣のコントロール確保のアレンジがなされるのに、一方で、ひとたび上場がなされると機関投資家は、買収防衛策や複数議決権株式制度なんかの破棄を強く求めるというところで、一見矛盾するこの状況は何なんだろう?ということについても、最近議論が盛んです。
まあ、単に経営者がIPO価格が下がることを気にしていないとか、弁護士の言うがままにコントロールを強める条項を入れているだけという身も蓋もない説明もあるのですが、IPOステージでは、経営者の支配権を強く保護することが効率的なアレンジという説明もなされています・・・とはいえ、こうした説でも、IPO後一定期間経過してしまうと、コントロールとキャッシュフローが分離していることに依るエイジェンシー・コストが大きくなるので、こうしたアレンジは望ましくないという結論に傾きがちなんですが・・・
この辺りも、何れ、もうちょっとちゃんと勉強しないといけないところですかね。やっぱり。

ガバナンスの多様性と公開会社のテーゼ

・・・とはいえ、不意打ちではなく、IPO当初から、ちゃんと「エイジェンシー・コスト問題が生じやすいアレンジをうちの会社はとるんで、それでもいい人は投資してください」というアナウンスをした上で、それでも無議決権株を買う投資家がいるんであれば、それは個人の自由ではないかというのも分からないわけではなく・・・
ただ、不完備契約一般の理論からいうと、非効率的な経営をしても解任されることがないという状況では、適切なインセンティブ付けは難しいわけです。しかも、こうした会社では、テイクオーバーも起きないわけで、一般投資家というのは、経営者の不適切な経営に対して、ほとんど何の保護手段も持ち得ないということになります。
アメリカでも同じじゃ?、と、思うかも知れませんが、アメリカでは、たとえ無議決権株主でも、株主訴訟という経営介入手段は残っていますし、それを現実的にドライブする弁護士も(いいか悪いかはともかくとして)たくさんいて、証拠収集手段としてディスカバリーというルートがあります。なので、コントロールを持っているとはいっても、利益相反の「しっぽ」をつかませれば、身の破滅につながるというプレッシャーは依然として残っています。
この辺りの緊張感は、やっぱり違いに入れないといけないんじゃないかと・・・

代わりに

というところで、あくまで「感触」ですけど、今のところは、取締役選任権を通じたコントロールの可能性もないし、したがって、テイクオーバーの可能性もない形での公開というのは、やっぱり問題が多いんじゃないかという気がしています。
公開会社の経営権のコントロールの限界というのは、あくまで経営陣が「企業文化」が何かというのを、一般投資家が評価可能な程度に定義して開示した上で、「企業文化」の最低限を守るための交渉を行うための買収防衛策を維持できるというところまでじゃないかな、と。
それが一般株主に理解してもらえる自信がなければ、やはり上場はすべきではないんじゃないでしょうか?
むしろ、PEファンドとか銀行とかの集合行為問題が生じない資金提供者との間の方がエイジェンシー・コストの問題は少ないので、そういう意味でも「合理的」ですし・・・
何れにせよ、この辺りは会社法の中でも、もっともセンシティブ、かつ、かなり先端の議論領域で、紅の牛さんと磯崎さんの着眼点のよさには脱帽モノです。

(追記)
多様なガバナンスの形態ということでいえば、種類株で支配権を固定してしまうよりも、取締役会をクラス分けして、例えば、一般株主が2人、種類株主が4人を選ぶというような方がエイジェンシー問題への対処としてはいいかも知れませんね。
その意味では、議決権制限株式が公開会社に認められていて、class voting stockが公開会社(非譲渡制限会社)に認められていないのは、何かバランスが悪いのかも知れません。

Posted by 47th : | 09:46 AM

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