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風営法中間試験回答

ご存じの方も多いかと思いますが、neon 98さんが、日本のラブホテルとその規制に関してアメリカのロー・スクールの教授が書いた論文を詳細に紹介されています((1) (2) (3))。
で、neon98さんが、最後に出題を。

1. 今までの論述を参考に既存の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の枠組みでラブホテルを規制するとした場合に、どのように定義規定を設けるべきか。理由を含めて簡潔に記述せよ。

2. 他に異なる規制アプローチが考えられるか。長所・短所を比較検討のうえ、もっとも望ましいアプローチを簡潔に記述せよ。

〔制限時間24時間以内。いかなる文献の参照も可能とする(但し、引用すること)がコピー&ペーストは不可とする。回答はトラックバックによること。以上。検討を祈る。〕

ちょっとCorporationで疲れた頭をほぐすために、挑戦してみます。


そもそも85年風営法改正は失敗だったのか?

私がneon 98さんの解説を手がかりに原典を本当にざっと見たところで理解したのは、筆者は、85年の風営法改正でラブホテルを風営法の範囲に取り込もうとしたものの、定義付けの難しさを意識してなかったために、①extralegal love hotel、つまり、回転ベッドとか鏡はなく、食堂もあるんだけど、やっぱりラブホテルはラブホテルなホテルは野放しのままになり、②昔ながらのラブホテルも風営法改正が新規参入を難しくしたので、たくさんの従来からのホテルはつぶれたものの、生き残った相当数のラブホテルはレントを獲得して、却って経営状態がよくなってしまった、③風営法がラブホテルを定義の中に取り込んだことによって、ラブホテルの存在を法律が公認してしまった形になってしまい、却ってラブホテルに対する社会的あるいは非法的な障害を取り払ってしまった、したがって、ここが明確に書いていないのですが、④立法者は85年風営法改正の目的を達成できなかった・・・というのが、筆者の結論ではないかと思います。
ただ、ざっと見た範囲では(なので、ひょっとしたら文中にデータがあるのかも知れませんが)、筆者が規制の効果を図るために引用しているデータは、extralegalとlegalなラブホテルの絶対数の増加のデータです。
・・・でも、85年風営法の目的は、ラブホテルの絶対数の増加を防ぐことではなく、住宅街や学校などの近くにラブホテルが建設されるのを防ぐという点だったはずなので、特定のゾーン内のラブホテル数を見ないと評価は下せないんじゃないかという気が・・・特に、風営法の新規認可が規制ゾーンの内外を問わずほとんど不可能という状況の下では、「extralegalなラブホテルの数の増加=風営法の規制の下で運営することを望まないラブホテルの増加」ということにはならず、風営法の新規認可が容易であれば認可を取得するつもりのある(その意味で実質的には風営法の要件を満たしている(quasi-legalとでも言うべきでしょうか?))ラブホテルも、extralegalなホテルの中にあることを意味するはずです。
で、住宅街の真ん中に「それと分かるような」extralegal love hotelというのは、あんまり見ないし、新しい建物の「おしゃれな」ラブホテルも、やっぱり昔ながらのラブホテルが集中している地域にあって、一種、独特なエリアを形成したり、あるいは人里離れたインターの脇にネオンを光らせていることが多いという「経験則」からいうと、extralegalの中のかなりの部分はquasi legalだという可能性は結構あるような気がします。
そうすると、根本的なところで、そもそも85年風営法の規制は効を奏しなかったという評価には疑問が残ります。

85年風営法改正「過程」のもたらし得る効果

理論的に考えても、85年風営法の改正とその後に都道府県が一斉に規制に動いたという過程とその後の厳格(過ぎる)運用、加えて実際旧来のラブホテルで閉鎖に追い込まれたところも多かったという事実は、ラブホテル産業界に対する「脅し」の信頼性を高めているという可能性も否定できないような気がします。
つまり、立法府の関心対象となっているゾーンに、extralegal love hotelが進出した場合には、立法府は、そうしたホテルを範囲に含めるように法改正をする。法改正がなされた場合には、極めて厳格な運用がなされる(実質的に新規認可は行わない+改修にも制限を加える)ため、規制されることは極めて深刻な損害を被る・・・この場合には、ラブホテル業者は、立法府の関心となっているゾーンに積極的な進出を避け、既に許容されているゾーンでの競争や集客効果を高める方が合理的な選択肢となる可能性があります。(寡占市場への参入ゲームのバリエーションですね)
これと、いわゆるキャッチアップ条項を設けて、法律上は、いつでも規制できるけど、実際には規制しない状況が続くことによって、脅しの信頼性を喪失してしまうよりも高い規制効果(目的達成度)を実現する可能性があるようにも思えます。

というわけで、回答は・・・

というわけで、第1問の回答ですが、上記のように、住宅地域や学校の近隣における進出が盛んかどうかによって、答えが変わります。
もし、そうしたゾーンにおける進出が規制前よりも低レベルに収まっているということが確認できれば、85年改正が効果を持っているわけですから、特に現在の定義規定を変える必要はないということになると思います。(ラブホテルの絶対数を減らしたいのであれば別ですが、そこまでパターナリスティックにならなくてもと個人的には思います)
逆に、extralegal love hotelが、そうしたゾーンに高いレベルで進出しているのであれば、①外形的・一義的に定義可能な基準を設けて、執行を厳格化するか、②定義上は「もっぱら異性と一緒に・・・」とかいう極めて広範な形態にして、執行で調節するかの何れかなんでしょうね。どちらがいいかは一概に言えませんが、サンクコストが極めて大きい業界ですので、上にあげたゲーム理論的な枠組の下で、①の方向で対処しつつ、脱法的な事例が現れた場合には、再度の法改正でタイムリーに対応することを明確にコミットするというのが、いいような気がします。
第2問の回答は、これは、既に上で述べたように、外形基準+一律執行+将来の法改正へのコミットメントは、一部に規制の隙間を利用する者を許してしまうかも知れませんが、全体的には適切なインセンティブを与える可能性が高い(あと、非合法な規律があって、実際には抜け駆けも許されないかも知れませんが。。。くわばら)。規制文言を抽象的にすると、執行の厳格性が保てないため、却ってなし崩し的に規制範囲が狭められる可能性や、逆に過度の萎縮効果を与えてしまう可能性がある。。。といったところではないかと思うのですが・・・
・・・というところで、先生、いかがでしょう?

Posted by 47th : | 12:45 AM

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(過激な内容は含まれていないはずですが、書く自由もあれば読まない自由も認めているブロガーとしてしつこく注意喚起です。)出題の前提となっている論文は日本にお... [続きを読む]

トラックバック時刻: November 15, 2005 05:43 PM

コメント

TBありがとうございます。ほとんどノリで問題作成したので、実は解答が来るのをあまり想像してなかったというのが正直なところです(^^)。著者の結論を紹介しなかったのは、ご指摘のように、著者がこの改正をどう評価しているのかが明確ではなかったためです。Discoveryのお手伝いの仕事が入ってしまいまして、「先生」からの講評はしばしお待ちを。
個人的には、ろじゃあさんの問題(下記URL)の方がはるかに難問で、果敢に挑みたいところです(^^)。
http://rogerlegaldepartment.cocolog-nifty.com/rogerlegal1/2005/11/post_cb82.html

Posted by neon98 : November 12, 2005 04:16 PM

>neon 98さん
Discoveryのお手伝い・・・ご苦労お察しします。
Discoveryといえば、私もかなりの量のドキュメントのdesignationをやりましたが、最後まで、confidentialとhighly confidentialをどこで区別するのか、よく分かりませんでした・・・っていうか、弁護士が分かるわけないでしょう、っていう感じですが。
あと、privilege designationも、特に日本企業が絡むと難しいですよね・・・
講評、のんびりとお待ちしています。

Posted by 47th : November 13, 2005 10:59 PM

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