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ライブドア事件にみる経済事犯リテラシー

一夜経って、また、いろいろと情報が増えてきています。私のアクセスできる情報というのは、基本的に新聞のネット記事なんですが、マスコミの情報も錯綜しているようです。

そんな中、個人的に興味をひいたのは、asahi.comの宮内取締役のインタビュー記事です。

「買収を発表する前にすでに対象の出版社を買収していたといわれるが、先に株式を取得していたのは投資事業組合で、(ライブドアの金融子会社である)ライブドアファイナンスが9割以上を出資する企業再生ファンド。ファンドの最終決定者も当社ではない」
「その後、バリュー社がこの出版社を欲しがったので売却した。一方、バリュー社の株式分割は当時の株価をかんがみて実施したもので、すべて別々の取引。一連の取引に見えるとすれば私の落ち度だ」

昨日の記事で書いたように、ファンドの仕組的にみれば、ファンドの資金提供者と意思決定者は別になっていて、ファンドを通じて取得した企業と資金提供者の間の支配関係は切断されているというのは普通の話で、上のインタビュー記事からすると、今回のファンドもそういう類の話だったということを示唆しているようです。

で、こうした場合に、ファンドの運営している企業が軌道にのったところで、資金提供者自体が連結に組み込むために株式を直接保有したり、グループ会社とくっつけたりする・・・というのは、「よくある」とは言いませんが、珍しいという話でもないような気が知るんですが、どうなんでしょうね?

とすると、今回の場合の問題は(粉飾云々はおいておいて)、①株式交換という手法を使ったこと、②ファンドの資金提供者に関する情報を開示しなかったこと、③ファンドによる取得から株式交換までが6か月程度(短い?)ということ、④株式交換から実行までの間に株式分割をしたこと・・・といったところに特殊性があるんでしょうか?

ただ、もし、風説の流布にせよ偽計にせよ、実行行為(犯罪の行為)が、株式交換のアナウンス自体にあるという立場をとるなら、④の問題は実行行為後の話であって、直接には関係ないような気もするところです。(あえて言うとすれば、株式交換によって取得した株式を売却するというところで「有価証券の取引のため」という目的要件につなげることかも知れませんが・・・ただ、株価の上昇の大きな要因は株式分割であって、それ自体は違法な行為ではないとすれば、これも主張としては弱いような気がしますが・・・でも、このasahi.comの記事を見ていると、株式分割による株価上昇が悪いとみているような・・・このロジックは何なんでしょう???・・・わからん・・・)

というわけで、やっぱり何が嫌疑なのか私には分かりません、そんな私向けなのか毎日新聞に「ライブドア:強制捜査のポイント、株式交換・分割のQ&A」という記事が。


Q 今回の捜査での疑惑は?

A 株価つり上げ・売り抜け疑惑だ。LDMは、マネー社の買収発表後の04年11月8日に自社株1株を 100株にする株式分割を発表、その後、分割実施日を05年1月20日に延期した。この間、株価は現在価格に換算して、買収発表前の1780円から12月 16日に8万500円まで急騰、株式分割時点でも3万円近かった。

Q すごい上昇だ。

A ライブドアはLDMの株式分割 で同株約340万株を無償で得た。そして分割後、2月16日までに33万6000株を売却、47億円の利益を得た。株価が上がる材料になりそうなマネー社 買収の虚偽情報発表も、株式分割も、株価をつり上げて売り抜けるためだったのではないかと疑われている。 

 ・・・ということなんですが、つまり①株式分割で値をつりあげた、②「株式分割で得た株式」(・・・といっても、これは要するに分割によって手持株が100倍に増えたというだけの話ですが)を売って利益を得た、③マネー社買収の発表もLDM株価のつりあげ工作のためだった・・・ということなんですが、①と②は、妥当かどうかはともかく、「株式分割があった後で手持ちの株を売却しただけ」で、これ自体は違法でも何でもないですよね?(それとも、これが「今回の捜査での疑惑」なんでしょうか?)
ついでに、分割による「錬金術」といわれる株価高騰の主要な要因は、一時的な需給バランスの悪化が占める割合が大きく、見かけの株価は高くても、その価格で実際に売り抜けできる量は自ずから限られるわけです(多数の売り板があれば、高騰は収まってしまう)。なので、「見かけの株価が高い」ことと、実際に「株価を維持したまま株を売り抜ける」ことは全く別の問題で、一般に大株主にとっては後者はそんなに簡単な話じゃないですよね。(なお、分割の際の決済物件の不足による需給バランスの崩れが終わった後でも残っている株価上昇分は、シグナル効果や流動性の向上によるもので、それ自体は「錬金術」というのとは違う話です)

とすると、要は、③なんでしょうが、これが何故「違法」なのかは、やっぱりすっきりしないところです?
そもそも「違法」だとすれば、「適法なやり方」は何だったのかと言う話になるわけですが、(i)株式交換自体をすべきでなかったのか?、(ii)ファンドの資金提供者を明らかにすればよかったのか?・・・まさか、(i)ということはないでしょうから(あったりして(- -;))、そうすると「ファンドの資金提供者がライブドア・ファイナンスであることが分かっていれば、株価は上昇しなかった」ということを前提にしているんでしょうか?・・・これも、そんな簡単に立証できる話じゃありませんよね・・・

ただ、同じく毎日新聞によると

同監査法人はグループの05年9月期決算を会計監査した際、グループが推進する株式交換による企業買収について、いったん「法律上問題がある」とする監査 調書を作成した。しかし、この当初案を見たグループ幹部から修正を求められたため、この違法性を指摘した部分を削除したという。

ことも報道されています。
どういう「法律上の問題」なのかは記事からは分からないんですが・・・これは(a)「05年9月期」ですから、マネー社の買収とは別の話でしょうし、(b)株式交換自体の「違法性」を監査法人が指摘するというのも、ちょっと不思議なんで、もしかしたら株式交換による買収の際ののれんや連結調整勘定の処理なんかということもあるのかもしれません。

何れにせよ、企業買収絡みの会計問題というのは、これまた非常に複雑な構造になっています。私は会計の専門家ではないのと、留学後(2004年7月)アップデートしていないので、詳細は避けますが(この辺りについてはGrandeさんとか、KOHさんのブログに注目されておくといいかも知れません)、企業買収絡みの会計基準としては、株式交換に関する会計指針と企業結合会計基準というのがあるわけですが、問題となった時期に関して言えば、どちらも強制力はなかったんじゃないかと・・・さらに、グループ内の資本が絡む取引の会計処理については、留学前に、よく会計士の方と議論したものですが、必ずしも確立した慣行があるわけではなく、監査法人の方によって考え方にばらつきがあります。

TBをいただいたSKDさんのブログでの報道のまとめを拝見すると、今回の粉飾ということで言われているのも、企業買収絡みの会計処理の取扱いである上に、有価証券報告書や半期報告書の不実記載の問題ではなく、取引所での業績開示の中でのもののようです。そうだとすると、更に微妙さはいっぱい・・・

何れにせよ、経済事犯・・・とりわけ、今回のように今まで問題となったことのない類型の経済事犯というのは、火付け・強盗・殺人といった事実認定が(ほとんど)全てという世界ではなく、そもそも何が違法とされるべき取引なのかということ自体が、極めて議論の余地のある話です。

上にあげた記事とは別の意味で印象的だったのは、日経の社説です。

ただ一方で金力任せの暴走との批判も浴び「ライブドアの経営判断の基準は『利益が上がるか』『株価は上がるか』の2つしかない」との見方もある。「もう け のためにはルール無視」という古い悪弊に染まっていた故に一線を越え、違法の疑いをかけられる行いに走ってしまったのなら情けない限りだ。

・・・検察に 「違法の疑い」をかけられること自体が「一線を越え」てしまったかのような扱いなんですが、(ネットに出ていない記事の中で書かれているのかも知れませんが)、どうした取引が、どのような形で「違法になる」のかは明らかにされていません。

日本では、もともと「無罪推定」の話はどこへやら、ひどいときには基本的人権の一つである自己負罪特権の行使する証人を威圧するという、とても法治 国家と思えないことが起きる場所なんですが、とりわけ経済事犯については、事実面だけでなく捜査機関側が拠って立つ法的理論を冷静に見つめて、必要に応じ て批評を加える必要があると思うんですよね。
そういう観点から、今のところマスコミの記事を見ていると、①捜査機関側のよって立つ法的立場を必ずしも十分に取材・理解できていないのではないか?、②捜査機関側の法的立場を分からないままに、「捜査機関が違法と考えている行為」=「違法な行為」という形で、「捜査機関の主張が真実であることを証明できるのなら、それは犯罪である」という形で、普通の刑法犯と同じような形で「捜査機関がおかしいと思う事実」を中心に報道しているんじゃないか?・・・そんな疑問を覚えるところです。

・・・というわけで、事実関係が分からない中、あんまり色々と言っていると後で赤っ恥をかくおそれもありつつ、捜査機関側の法的な拠り所について疑問を投げるという視点は埋もれてしまうかも知れないと思って、こういう記事を書いているわけです・・・いや、ただ単に好奇心とか野次馬根性で書いているだけではないんです。ほんとうに・・・たぶん。

 

Posted by 47th : | 16:38 | Securities

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トラックバック時刻: 2006年01月22日 14:36

» 「ライブドア問題」に係る東証と日本経団連の当事者性について from 日記なぞ・・・
 今回のライブドア問題については、やはり違和感がある。特に下記の点につきそう思いますので、不明な点はご教示頂ければ幸いです。  強制捜査に入ったことつい... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2006年01月25日 09:08

コメント

47thさんが、ここ2、3本のエントリーを「罪刑法定主義」を意識しながら書いていらっしゃるところはよく理解できますよ。偽計、風説の流布といった概念や主観的構成要件を、今後どうやって解明、立証していくのか、(ちょっと粉飾決算疑惑のほうに話題が向かっていくかもしれませんが)私も注目していますし、47thさんの問題意識に激しく同意いたします。同じ話題ばかりとはいかないでしょうが、ぜひ本問題については、現在の論調で進めていただけますと読むほうとしては楽しみがあります。(単なる応援メッセージでした(-^〇^-))

Posted by toshi : 2006年01月17日 22:37

47thさん、toshiさんへ
罪刑法定主義の話、こういう国民に影響が大きいかも知れないお話だからこそ誰かはまじめに考えておかないといけないお話ではないかと。
フジテレビ騒動の時は証取法の枠組みを度外視した報道がまかり通ってましたけど、ちょっとは変わったなあと思ってたんですが、こと刑事関係で少し大きなお話になると・・・悪気はないいんでしょうけどねえ。
いずれみなさん、嫌疑は嫌疑、法律の解釈は解釈ということで冷静になるとは思うのですが・・・

Posted by ろじゃあ : 2006年01月17日 23:15

fujiです。外野席からひとこと。
今回の件は、通信対放送(=新聞)の対立の構図として眺めた方が面白いのでは。バブリーな高株価を背景に通信と放送の融合を謳い、放送会社に買収を仕掛けるネット系の会社に冷や水を浴びせるにはもってこいのネタですよね。事実がどうであろうと、とにかくでかでかと報道することに意義があるのでしょうね。でまんまと術中にはまったといった感じでしょうか。当面買収の脅威はなくなりますからね。

Posted by fuji : 2006年01月18日 09:53

>toshiさん、ろじゃあさん
ライブドアのやり方が「いい」というわけではないんですが、それに対応すべきルートが、現行法(ルール)の下で罰すべき話なのか、それとも、現行法(ルール)のあり方が悪いのであって、それを是正することで対応すべきなのかというところがポイントなんじゃないかという気がしてるんですよね。
>fujiさん
興味深い視点ですね。ただ、もし根拠なく煽っていると、今度はそっちが風説の流布になったりしますよね・・・

Posted by 47th : 2006年01月18日 22:55

>47th様

私には、今回の捜索差し押さえは、裏に「本丸」のある
事実上の別件捜索差し押さえである気がしてなりません。

元々、「敵」を作りかねない相当キワドイ手法で
成長街道を突き進むLDに関しては、組織の内部・外部を問わず、違法行為が行われれば、容易に捜査当局にタレコミが
行われる状況ではないかと思っておりました。

やはり、どうしても、ベンチャー企業というのは、金も
なければ人もいない、ということでキワドイ手法を
全く使わずに企業を拡大させるのは困難という側面が
あり、経営者は誘惑にかられてしまうものですが、
LDに関しては、経営者のスタイルがスタイルだけに、
他の企業よりもタレコミの危険性は高いと考えており
ました。

私が思うには、現在、報道で出ている情報のみで本件を
議論するのはなかなか難しいと思うのです。
(もちろん47th様が議論されていることを、否定する
趣旨ではありません)

また、「陰謀論」「国策捜査」などと絡めて議論する
向きもありますが、おそらくそれも当たらないだろうと
思います。

Posted by 身元不詳 : 2006年01月19日 04:49

承前

私が思いますには、捜査当局にはある種の確証が既に
あり、確実に切り崩せる罪名を、捜索差し押さえの
理由に用いただけだろうということだと思います。

去年の暮れごろから特捜部は動いていたようですが、
罪証隠滅を防ぐために、年明け早々にガサに入り、
それを突破口として全容解明するという、手法が
用いられたにすぎず、今現在、メディアで報道されて
いることのみを、特捜部が嫌疑として抱いている
ということではないと思うのです。

今回のような経済事犯では、被害を最小化するために、
捜査当局と経営陣の間で種々の取引が水面下で
進むのが一般的なようですが、今後、どのように
推移していくのか、非常に興味深いところです。

Posted by 身元不詳 : 2006年01月19日 04:58

>身元不詳さん
従来の巨大経済事件というのは、長銀、そごう、カネボウのように、既に捜査以前から経営状態が悪化していて一種の過去の膿の清算的な意味合いで証拠収集もスムーズな事案か、利益供与事件や贈賄のように法的な解釈論はほとんど問題とならなず事実認定がほとんど全てという事案だったのに対して、今回の事案は、①今のところ生きている企業を捜査をきっかけに死に追いやるかもしれない(しょせんは、誰が引き金をひくかという問題でしかないかもしれませんが)し、②それゆえに捜査への抵抗も大きいことが予想され、更に、③事実認定だけでなく、そこに適用される法律構成も必ずしも一筋縄ではない(争いがあり得る)という点で、これまでと違う行動原理を感じています(気のせいかもしれませんが)
私は、実は、今回の検察の動きに、「必ず勝てるとは限らないが、それでもやらなければならない」というヒロイズムを期待しているんですよね("24"の影響かも知れませんが^^;)
・・・とかいって、意外とあっさり、カタがついてしまったりするのかも知れませんが・・・何れにせよ、外野の人間としては、せいいっぱいに考える材料にさせていただこうかなと思っています^^

Posted by 47th : 2006年01月19日 14:00

あのように個人資産500億とか報道されているときのホリエモンはうらやましくもありましたが、今回の捜査当局のやり方はいささかやりすぎだと思いますね。東京地検が血道を挙げるエネルギーの100分に1を「振込み詐欺団」の操作に向ける方がもっと重要じゃないか。警察のスローモーションな操作態度に被害拡大はもっともっと深刻だとおもいます。さてLD事件、結局無一文になりそうなLDヒルズ族がこの事件発覚まで
みんなが儲かっていて、被害者なんて誰一人いなかったのに、この発覚で22万人が大損です。検察や警察の恐ろしさ、あらためて「警察沙汰」おそろしさを思い知らされました。

Posted by hana : 2006年02月03日 09:32

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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