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イベント・スタディ的に見るオリジン東秀争奪戦 (2/17)

ついさっき、件の事件については何も書かないと言った舌の根も渇かないうちに何ですが、株価を見ていたら純粋にイベント・スタディとして面白かったので・・・

ちなみに赤い線がオリジン東秀、青いのがドンキ、緑の線はTOPIXです。

どこが面白いかというと・・・

  • TOBの開始と共にオリジン東秀の株価はジャンプし、ドンキの株価は大幅に下がっている。

    アメリカの実証研究でも、買収のアナウンスで株価のリターンが若干下がると言われているのですが、ドンキの場合には20%弱のネガティブ・リターンが見られるのがびっくりなところ。
    「M&Aで株価を上げる」なんていう話をどこかで聞いたことがあるかも知れませんが、実証研究的には、M&Aで株価が上がるというのは、必ずしも普遍の真実ではないわけです(もっとも、どこぞの会社はEPSが異様に大きかったので、ブートストラップ・ゲームがはまった可能性はありますが)
    日本の市場の効率性をどこまで信用するかにもよるのですが、オリジン東秀の発行済株式数が約1800万株で400円のジャンプなので(その後200円ほどおちていますが)、約72億円(その後の下落を考えると36億円)のゲインで、ドンキの方が約2200万株で800円の下落ですから、176億円のロスというところで、差し引きで考えると100億円から130億円のロスが出ているということで、一見すると市場はこの買収は全体的な効率性を向上するものではないと判断しているようにも見えます。ただ、16日はトピックスの方も大きく下がっているので(5%ぐらい?)、ゲインを上方修正、ロスを下方修正しなくてはいけないので、もうちょっと差は縮まるかもしれませんね。
    あと、この時点での市場の反応を見る限りは、ドンキがオリジンの少数株主の犠牲の下に利益を吸い上げるというシナリオとは、ちょっと整合性を欠いているようにも見受けられます(もしそうだとすればドンキの株価は上昇するはずなので)。

  • ドンキのTOB開始直後にオリジン東秀の株価が跳ね上がった後、大きく下がっている

    もう一見して明からですが、TOB開始直後にオリジン東秀の株価が思いっきりジャンプした後、翌日ぐらいには半分ぐらい戻っています。
    これが、「敵対的」であるということが分かって買収が完了する確率が低いと判断した結果なのか、それとも、単に市場がオーバーリアクションを見せただけなのかは、これだけでは分かりませんが・・・後者だとすれば、この辺りが日本の市場の効率性の一つの限界を示していることになりますね。

  • イオンの参入でドンキの株価もあがっている

    オリジン東秀の方は少し上がった後に、すぐに元の水準に戻っていて、こっちも面白いんですが(マーケットのオーバーリアクション?)、ドンキの株価が上がっているのが面白いところです。
    まあ、合理的に解釈すれば、市場は「ホワイトナイト参入」→「ドンキTOB失敗」→「ドンキ、オリジン株売却で利益」というシナリオを予想したという辺りでしょうか?
    ドンキのオリジン株平均取得価額は見ていないんですが、予想されるキャピタル・ゲイン額とここでの時価総額の上昇額を比べてみるのも面白そうです。

  • TOB不成立でオリジンの株価は下がり、その後落ち着いている

    前段の部分を合理的に解釈すると、市場はドンキがTOB価格をつり上げてくると見たのかも知れません。
    後段の部分は、この僅かの間にドンキはオリジン株を15%も買っているのに、オリジンの相場に全く影響を与えていません。これはこれで、結構、興味深い現象かと。

  • ドンキ49%取得発表で両者の株価が下落

    で、この最後のオチも面白いところで、色々な解釈があり得るんですが、個人的にツボなのは、1/16の市場の反応と矛盾しているように見えるところです。
    1/16の時点でも上限株式数の設定があったわけで、ドンキが過半数を取得して少数株主はオリジンに残るというシナリオ自体は1/16の時点でドンキがTOBをかけて成功した場合と状況は変わりません。
    にもかかわらず、市場は全く異なる反応を見せているわけです。
    この1か月の間で、ドンキによるオリジン買収成功の場合の効率性評価に大きな影響を与える事実があったとみるのか、それとも、1/16か2/16の何れかの反応が不合理だったのか?
    個人的には、極めて興味深い現象です。

で、ついでにイオンの株価を見てみると・・・

 

こちらの方は何が面白いかというと、TOBに参入した時点では、それほど大きなアブノーマル・ロスは見られないのに、ドンキのTOBが不成立になると大幅なアブノーマル・ロスが出ているという辺りでしょうか?

普通に考えれば、もしオリジンを買うこと自体がイオンの利益にならないと考えているのであれば、参入した時点で株価にロスが見られなくてはいけないし、逆に、ライバルがドロップして価格の競り上げを回避できたのであれば(しかもオリジンの株価を見ていると、市場はビッドでのTOB価格の上昇を期待していたようにも見えますし・・・)、ドンキのTOB不成立はポジティブに評価されるはずですが・・・

いやはや、いろいろ考えてみると面白いところです。


Posted by 47th : | 08:03 PM

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コメント

時価総額2兆円、連結売上高4.4兆円、同総資産2.8兆円のイオンにとって、時価総額500億円、連結売上高520億円、同総資産167億円のオリジン東秀を買収することの成否にインパクトはなくとも、時価総額2000億円、連結売上高2600億円、同総資産1500億円のドン・キホーテにとっては大きなインパクトになるということかな。。。

イベント発生時(伝統的な表現で言えば「材料」が出たとき)に、まともな評価で株価が形成されるなんて期待できないと私は思いますよ、最近の相場じゃ。
でなきゃ、最近のIPO銘柄の馬鹿みたいな初値はありえない。

Posted by HardWave : February 17, 2006 09:48 AM

初めまして。いつも楽しく読んでいます。38歳の日系証券マンです。ドンキとオリジンの株価の動きは確かに面白かったですね。「何で・・」ということもあったし、「そうだよな」と納得の上げ下げもありました。
ただ最近のマーケットって、短期トレーディングが多いせいか、上下のぶれ方が早くてその解釈が難しいですよね。業績の良し悪しに対する株価の動きは昔に比べ効率的になった様に思いますが(インサイダーまがいの発表前から動意している事が少なくなった)、個々の材料については何か腑に落ちないことが多いような気がします。
NYは寒いですか。日本の冬もとても寒いですよ。雪も多いし。。。
それでは。

Posted by アリチン : February 17, 2006 09:54 AM

こんにちは。
ドンキホーテに対しては、JPモルガンと、GSが大量に買い増しています。彼らは、おそらく確実に何らかの、他の投資家の知らない情報を持っています(情報の非対称性)。また、恐らく需給も撹乱されており、株価の理由付けは難しいと私は思っています。

オリジンの株価は、これまたドンキホーテによる買い付けで需給が撹乱されていますし、TOB価格による影響も強いと思います。

ただ、全体的には、「何らかの敵対的状態」の発生を市場はかなりネガティブに捕らえている、とすると全体的に比較的うまく説明できるように思います。
和をもって尊しとなす価値観でしょうか、それとも羹(Livedoor)に懲りているのでしょうか?

Posted by Apricot : February 19, 2006 11:06 AM

こんにちは。
アメリカの実証研究で、"Price Pressure Around Mergers"というのがあります。http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=318539
ちなみに、日本でもほぼ同じことが起こります。にもかかわらず、日本の場合は発表日の存続会社の超過リターンは”正”です。不思議ですね。

Posted by 通りすがり : February 20, 2006 04:06 AM

>Hardwaveさん、アリチンさん
昔の方が価格形成は合理的だったということなんですかねぇ?もしそうだとすると、個人投資家が増えたのが原因なのか、それだけに限らない投資資金のプロファイルの偏りが原因なのか・・・市場の効率性は、今後の証券市場における制度設計の根幹に関わるので、色々と気になるところです。
>Apricotさん
「何らかの敵対的状態」をいやがるというのはあるかも知れませんね。
あえて理屈を立てるとすれば、取引費用による損失が巨額になると予想しているということでしょうか?
もしそうだとすると、買収防衛策などをあえて入れる間でもなく、敵対的買収は起きにくいのかも知れませんね。
>通りすがりさん
日本での現象とその解釈については、まだまだ色々な解釈の余地があるような気がします。特に、買収に対する風土が変わりつつある現状の動きなんかを見ると面白い現象が見られそうですね。

Posted by 47th : February 20, 2006 10:35 AM

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