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村上氏立件へのハードルとその影響

きっと日本ではテレビや紙媒体も凄いことになっているんじゃないかと思いますが、海の向こうではネットぐらいしか情報源がありません。
それを見ていると、週明けにも立件ということで、基本的なストーリーは12月中に村上氏とLD側が接触した際にLD側の買付情報を村上氏が知って大量保有報告書で明らかになっている買増しを実施したということのようです。
これが基本ストーリーだとして検察の立件に立ちはだかる3つの法的なハードルと、もしそのハードルがクリアされてしまった場合に何が起こるかということを簡単にまとめてみましょう。

いつ「買付」は決定されたのか?

一つ前の記事でも書きましたが、日本のインサイダー規制においては、いつ「決定」がなされたかということが、大きなメルクマールになります。
これは法的な機関決定のタイミングではなく、その会社での意思決定の実態を踏まえて考えるべきとされています。過去の裁判例の傾向を見ると、LDの場合は社長である堀江氏が「決定」をすれば、取締役会での正式決議よりも前であっても「決定」はあったとみなされる可能性は高いでしょう。
問題は、堀江氏の中で、どの段階まで至れば「決定」と言えるかという点です。

例えば、12月に村上氏から提案された際に、ニッポン放送株式の取得も「将来的には」考えていたが、「具体的な」計画になったのは、フジテレビのTOBが開始された後で、ここから資金調達の手法なども具体的に検討し始めて、2月8日に間に合わせた・・・こういう事実関係の中で12月の堀江氏の心境をもって「買付」が「決定」されていたということはできるんでしょうか?

あるいは、12月の段階で堀江氏が社内でニッポン放送株式取得の是非についての検討を指示していたが、まだ検討中の段階であった場合は?

今回の場合は、その核心にいる堀江氏から証言をとることができるかが非常に微妙であり、その意味で堀江氏の内心に頼って事実を構築することにはリスクがあります。

そうすると、法解釈の問題として、「決定」のタイミングを早めることはできないか?、と、考えるのかも知れませんが、仮に上のように「抽象的な計画段階」や「検討段階」でも「決定」があったということになれば、単にファンドが苦しむというのではなく、上場会社の事業活動にも影響が出てきます。
例えば、自己株取得プログラムを決定するに際して、社内に他社との統合の「検討プロジェクト」があったら、当該プログラムによる自己株式取得にインサイダー規制の問題が生じてきますし、それ以上に、一応、東証の開示ルールではインサイダー情報が発生した場合には適時開示が求められていることからすると、そうした段階での適時開示が求められるというような話にもなってきます。

そういう意味で、検察が「決定」時期について、どのような法的解釈をとってくるのかは、ファンドだけでなく上場会社一般の実務にも影響を及ぼす可能性があるわけです。


何を聞いたのか?

次に、報道などを見ていると、「村上氏がLDにニッポン放送株式取得を提案した」ということが、決定的な事実であるかのように書かれているものが見受けられるんですが・・・

例えば、ある会社の買付を提案して、「いいねぇ」と言われただけでインサイダーになってしまうということになると、ファンドや証券会社の活動というのは、非常に大きなリスクを抱えることになってしまいます。

そもそも「買付情報」を利用するためには、どの程度具体的な情報を聞いていなくてはいけないんでしょう?
買付というのは、少なくとも、「どのタイミング」で「どのぐらいの数量」を「いくらで」という要素によって定まるものです、これらの一つ又は全部が欠けているのに、単に「いつか、少なくとも5%を買い付ける」という程度の情報でも「重要事実の伝達を受けた」ということで扱うことができるとすれば・・・例えば、ファンドのマネージャーが、投資先の会社に対して「○○を公開買付けで傘下に収めるなんていう噂があるようですが、どうなんでしょうか?」と聞いたら、明確には否定せずに「ちょっと、その辺りは言えないんで勘弁してくださいよ」と言われた場合、これで買い増しをするのもアウトになってくるということなのかという問題も出てくるわけです。

村上氏は「共同買付者」ではないのか?

「仕方なく買い続けた」 ニッポン放送株(共同通信)

関係者によると、村上ファンドは昨年1月時点で、ニッポン放送株の18%超を保有する筆頭株主だったが、村上氏がライブドア側に「一緒にやろう」と買い付けを持ち掛け、同社は2月8日までに同放送株の約35%を保有して新たな筆頭株主となった。
ところが、同月末までに村上ファンドはニッポン放送株の大半を高値で売り抜け、巨額の利益を得たとされる。

この記事を見ると、2月8日までの村上ファンドとLDの関係は「一緒にやろう」・・・つまり、共同買付者だったというのが実態だったという見方も可能なように思われます。特に、村上氏の買付行為は1月13日の変更報告書提出時点でLD側にも判明していたわけですから、LDの買付情報を聞いて、それを村上氏が利用することが想定外であれば、この時点で両者の信頼関係には亀裂が入ってしまうわけです。
村上氏の買い集め行為は、(12月中にそういう計画があったとして)LD側の買い集めがなされて初めて意味があるわけですから、ここでLDにへそを曲げられるようなことがあれば、元も子もないわけです。
そういう意味で、LDとの信頼関係が崩れるだけでなく、そもそもエグジットすら危うくなるようなことを村上氏が行うかというと疑問が残り、仮に12月中にLDの買付計画があったとしても、村上氏の買付行為は相互の了解の上での行為だったのではないかというようなことも思ってしまうわけです。

この場合、実質的にみれば、両者のやっていることは複数主体の協調買付行為でしかありません。

問題は167条の文言自体は、買付者以外の者で当該買付者のインサイダーから情報の伝達を受けた者である限りは、あたかも「共同買付者」であっても規制に服するようにみえるところです。

しかし、このロジックが適用されると、ファンドによる協調買集めは元より、法人格が別である限り親会社と子会社による共同買付や、大株主によるブロック・トレードの仲介で複数の証券会社が間に入って5%以上の取得をするような場合まで、買付関係者インサイダーに該当する可能性が出てきてしまいます。

検察が、村上氏とLDとの密接な関係を強調すれば強調するほど、両者の買付行動はお互い納得の上での協調買付であり、「共同買付者」であったという推定を強めてしまうでしょう。
この場合に、検察が「共同買付者であっても167条インサイダーとして規制を受ける」という立場を貫くとすると、現在行われている様々なプラクティスにも影響を与えていくことになります。

・・・というわけで、検察が、167条の典型的なパターンを立証するにたる事実関係を押さえているのではなく、こうした法解釈上の適用範囲の拡大を念頭に入れて今回の立件に進むとすれば、いろいろな面での影響が出てくる可能性があるということでした。

Posted by 47th : | 13:24 | Securities

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コメント

はじめまして。いつも楽しく、興味深く拝見させていただいております。
以前投資会社(VC)に勤務していたんですが、その際に投資先で上場した企業に関するインサイダー情報(株式分割、資本提携…)等が(未公開時の人間関係もあって)入ってくるケースがあります。
一方で企業が上場してしまえば、ロックアップ等の制約がない限りは「売るしかない」状況であるため、こういった行為は会社関係者のインサイダー情報にあたりますよね。
その会社では、投資担当者(I)と流動化担当者(L)の間にはファイアウォールがある(IはLに情報を提供しない)、という理由でこれらインサイダー情報の取得に特に制限を設けていませんでした。
こういうケースは法的にはどのように解釈されるんでしょうか。個人的にはかなりキケンだと思うんですけれど。

Posted by かぜ : 2006年06月03日 22:24

検察は、村上氏がライブドアの「決定」をいつ知ったか、あるいは共同買付だったかどうか…というレベルではなく、もっと主体的に一連の取引を計画し、煽り、主導していたという構図を描くのではないでしょうか。当然、それを証明するやりとりや謀議などの新事実をつかんで。堀江被告以外の幹部は完落ちしているのですから。

2月8日の時間外取引には、リーマンブラザーズによるMSCB引き受けが大きな役割を果たしました。村上、LD、リーマンの3者がお互いを信頼して賭けに打って出た背景は、事件の闇の部分です。かなり深い意思疎通の積み重ねがあって当然で、この辺りの経緯も今後、明らかにしてほしいものです。

検察はこれまでに例のない事件の構図を描いて新しい法令解釈に踏み込むでしょうから、今までの少ない報道情報をもとに、過去の判例や解釈で捜査を論じれば批判にしかならない。それよりも、起訴や冒頭陳述の後、検察の意図や事件の全体像が明らかになってからの47thさんの解説の方が楽しみです。

Posted by smart : 2006年06月03日 22:36

村上氏は「ライブドアが5%以上買うとは思っていなかった」と話しているそうです。
http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/shakai/20060604/20060604a4440.html
買い付け手法に検察が興味を示しているとも。
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/shakai/20060604/K2006060304360.html

とりあえず、共同買い付けの線は消えそうですね。

Posted by kumakuma1967 : 2006年06月04日 08:07

>かぜさん
日本のインサイダー規制というのは、その境界が非常に曖昧で、ご指摘のような状況も気をつけなければいけない典型例になるわけで、具体的な情報管理や取引意思決定の状況等を前提に専門家にリスク評価を依頼した上で、可能な限度でリスクを避けるための体制を整備するということしかないんだろうと思います。
ただ、今回の検察の用いるロジック如何によっては、そうしたリスク評価の見直しも必要になってくる可能性があるので、投資に関わる方々は推移を注視する必要があるのだろうと思います。
>smartさん
私にとっての関心は、一連の取引において村上氏が主導的であったとして、それが「犯罪」を構成するかどうかという点です。
「犯罪」を構成しない行為については、それを白日の下に曝す権限は検察にはありません。
ライブドア事件でも問題となりましたが、経済取引においては、検察に捜査を受ける可能性があるというだけで多大な萎縮効果が生じます。極端な話、今回の件で村上氏を起訴まで持ち込むことができなかったとしても、氏のファンドの事業は多大なダメージを蒙るでしょうし、他のファンドの活動にも様々な萎縮効果をもたらす可能性があります。
上訴を含めた公判の最終結論が出るのは数年先になるでしょうし、それについては学者の方々がより深い検証をされると思うのですが、実務家の感覚として、公判における最終結論ではなく、捜査段階での検察のロジックが非常に重要になる・・・その辺りの実務家としての見方として楽しんでもらえれば幸いです。
>kumakuma1967さん
貴重な情報、ありがとうございます。
村上氏としては、自ら共同買付者性を認めてしまうと、当時の発言の虚偽性をとりあげられてしまうので、まずは通謀を否認するんでしょうね。
捜査側としては、この否認に対抗するために、両者が密接な関係にあったということの証拠を固めていくわけですが、今度は、そこを固めていくと両者の関係は共同買付者という性格を帯びていくことになってしまうというジレンマが出てくるのではないかというのが、共同買付者性がポイントというところです。
何れにせよ、ご紹介頂いた記事にもありますが、村上氏はインサイダー規制には十分に配慮していたはずですので、LDの時のように検察ペースに持ち込めるかが、一つの焦点になるんでしょうね。

Posted by 47th : 2006年06月04日 11:35

個人的には6/4時点で、「村上ファンドから阪神株売却の意向の伝達を受けた事実はない」と阪急HDが適時開示情報を出していながら、ロイターは5日に「村上ファンド、阪神株売却へ」との報道を発表していて(朝日は4日に修正記事)、どちらが「風説の流布」なのか気になっている所です。

Posted by kumakuma1967 : 2006年06月04日 20:05

いつも質の高い議論をされていて、よく読ませて頂いております。ちょっと疑問があるのですが、どう思われますか。
Aさんが買占めをしているときに、Bさんがそれを知って買いを始めるとインサイダー規制違反になるとすると、Aさん自身はどうなるのでしょうか。Aさん自身は、自分が買占めを進めていることは認識している訳で、それを公表せずに買うとインサイダー規制違反になるのでしょうか?

Posted by オオタ : 2006年06月04日 23:35

すいません。証取法167条を見れば、出ていたんですね。質問を取り消します。しかし、5項4号を見ると、結構広い範囲が適用除外なんですね。

Posted by オオタ : 2006年06月04日 23:50

>kumakuma1967さん
そういう意味では、日本は風説天国ですよね。
マスコミや上場会社の方々は、どのぐらいライブドア事件の怖さを理解されているんでしょうね・・・
>オオタさん
いえいえ、それは大変に素晴らしいポイントです。
5項4号は、応援買いを依頼された第三者に関するものですので、買付者自身を直接にカバーしているものではないので、これでは救済されません。
ブロック・トレードとインサイダー取引規制(2)でさらっと書いたのですが、166条との条文構造との比較からは買付者自身が167条インサイダーとなってもおかしくないのですが、さすがにそれではナンセンスなので、実務的には買付者自身は167条インサイダーとならないことが前提とされているというところでしょうか。
ただ、インサイダーの条文が拡大的に解釈運用されるようになると、色々とジレンマが出てくるかも知れません。

Posted by 47th : 2006年06月04日 23:57

 
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