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「聞いちゃったら」だめです

村上氏が残すもの」には、多くのコメントとTBを頂きありがとうございました。
で、頂いたTBを拝見させて頂いて補足した方がいいかなと思った点について、少しずつフォローアップをしようと思うんですが、まずは、念のため、この点から。

「聞いちゃったら」だめです

おそらく、弾さんの「聞いたもの負け」というキャッチフレーズが余りにも強烈だったんだと思いますが、21世紀生活研究所さん(「聞いちゃったインサイダー?」)のように「聞いちゃっただけでインサイダーというのは厳しすぎる」という具合にとられた方もいらっしゃったかも知れません。
 しかし、「こっちから聞いたんではない」とか、「儲けるつもりがなかった」とか、「そんな情報は使っていない」という類の言い訳はインサイダー規制では一切認められません。これは、現行法上、もっともクリアーな点の一つであって、その意味で村上氏が会見で「儲けるつもりがなかった」というのは通用しませんし、通用させる必要もないと私も思います(※)。

私が気になっているのは、仮に村上氏のリリースにあるような事実関係だとすれば(但し、この辺りは後述のように検察の主張は大分違うようですが)、聞いちゃったときの状況からすれば現実味の薄い話や、単なる願望レベルの抽象的な話であっても、インサイダー情報になるのか(※2)、という話です。
「聞いちゃったかどうか」が問題なんではなく、あくまで「聞いちゃった内容が何だったのか?」が問題ということです。 

なので、例えば、製薬会社の社員の友人と飲んでいて、「実はこの前発表した新薬の欠陥が分かって回収しなくちゃいけなくなりそうで、そのせいで首が飛びそうなんだよね。ローン組んだばっかしなのに、やってられないよ」と聞いてもいないのに一方的に愚痴られたとしても、その話を「聞いちゃった」以上は、その会社の株の売買はできません。持っているその会社の株は塩漬けです。
たとえ、「前から売るつもりだった」とか「結局、業績の上方修正と一緒の発表だったから株価は下がらなかった。むしろ上がって損したぐらいだ」と言うのは、何ら言い訳になりません。

なので、その意味で「聞いたもの負け」は、証券取引の基本的なルールであって、これ自体は言い訳は効かないので、その辺りは、どうか誤解しなで下さい。
極端なことを言えば、そういう気の置けない友達がいるとかで、インサイダー情報が望まないのに入ってしまうかもしれない会社の株は持たない方がいいと言ってもいいぐらいです。
(この辺りの、実務における心構えについては、ぐっちーさんが書かれているので、そちらも是非ご参照下さい。私も全面的に同意します(※3)・・・が、日本の場合、証券取引等監視委員会に相談してもノー・アクション・レターはもらえないので、結局、塩漬けにしたまま、インサイダー情報が公表されるまで待つか、どこかで委員会の感触を掴みながらリスクをとらざるを得ないというのがイタイところですが・・・)
その意味で、検察が「聞いちゃったこと」を問題視するのは、全然不思議なことではありません。 

問題は、それでも親から相続してしまったとか、職業がファンドマネージャーという因果な商売でポートフォリオを組むために仕方なく持ってしまっていて、友達にも微妙な話はやめてくれよ、と常々言っているのに、数か月前に新薬開発の功績で昇進したと喜んでいた友人が「うーん、もしかしたらだけど、おれ飛ばされるかも知れないんだよね」とため息をついているのを聞いてしまって、「あ、何かあるらしい」と思ってしまったとか、夢はビル・ゲイツ越えという新興IT会社の社長が「おれの夢はトヨタのオーナーになることなんだよね」と聞いたら、どうなんでしょうね、というところです。


「聞いていないことの証明」?

もう一つ、おまけということで、弾さんの次の疑問について一応法律家としての回答を。

それより気になるのは、この場合の「私は聞いてない」証明というのはどうしたら出来るのか、ということ。こちらは「私は聞いた」証明よりずーっと難 しい。「私は聞いた」証明は、その情報がタイムスタンプ付きで記録されていれば、「私が見たのはこれだ」というだけで証明できるけど、それを見てないって どう証明するんだ?

刑事事件においては、検察は「聞いた」ことを「合理的な疑いを入れない程度」に証明しなくてはいけません。
逆にいえば、疑われた方がすべきことは「合理的な疑いの余地を提起すること」ことであって「聞いていないことの証明」は求められませんので、ご心配はいりません。

・・・といって、なお心配になるとすれば、それはインサイダー規制の作り方の問題ではなく、検察と裁判所という司法システム自体に対する信頼の問題です。つまり、実際には聞いていないのに、検察が「合理的な疑いを入れない程度」に「聞いた」という証拠を作りだし、被告人が必死の訴えにも耳を傾けずに裁判所がその検察の証拠をそのまま受け容れてしまうのではないかという不安です。

この辺りは感覚の問題になってきますが、一般の人がイメージしているよりは、公判段階での証拠とその認定に関しては、検察と裁判所はかなり信頼してよいのではないかと思います(※4)。

インサイダー取引のように「聞いた」という事実が構成要件の中核を占める事案において、一人の利害関係のある証人の証言で認定されることはまずあり得ません。 複数の証言の一致と客観的な事実関係との符合を積み重ねた上で、かなり丁寧な立証がなされるはずです。「絶対」ということはあり得ませんが、結果として裁判所が認定した事実が真実と反している確率は、神ならぬ人間が運営するシステムとしては十分許容範囲にあるはずです。

検察のストーリーなら?

最後に、go2cさんがまとめていらっしゃるように、村上氏のストーリーに対する検察からのバッシングが始まっているようです。
これが検察からのリークだとしたら、公務員の守秘義務や証取法157条との関係はどう考えればいいのかというヤボな話はおいておいて・・・・これが検察のストーリーだとすると、そもそもLDの株式取得は村上氏主導であって、単に願望を聞いたという話ではなく、もっとはっきりした話を聞いたという話なので、その意味での実務への影響は薄まるかも知れません。

ただ、これにも「村上氏立件へのハードルとその影響」で書いたようなハードルが残ります。特に、村上氏とLDがニッポン放送の支配権取得という共通の目的のために相互に了解の下でニッポン放送株式の買付を行っていたとすれば、こうしたファンドの協調買付が難しくなるという話になってきます。

これができないとなると、かつて磯崎さんと議論したジェット・ストリーム・アタック(※5)の心配はなくなるんで、買収防衛側としては悩みが一つ減ることは確かなんですが、何かそれでいいのかなぁ、というのが気になるところです。

 

 

(※)制度論として、どこまでインサイダー規制でカバーすべきかという問題は別途ありますが、ひとたびインサイダー規制を適用する範囲が定まった場合の、規制技術としては、「利益をあげるつもりがなかった」とか「結果として利益をあげることができなかった」という抗弁は認めるべきではありません。

(※2)厳密には、それを言った会社の側で「決定事実があったか」という問題と、どの程度の内容を聞けば「重要事実の伝達を受けた」ということになるのかという二つの問題があるわけです。この辺りは、「ファンドの活動とインサイダー規制」「村上氏立件へのハードルとその影響」も合わせてご覧下さい。

(※3)村上氏の会見に対するぐっちーさんの評価はかなり手厳しいようですが、村上氏の会見の内容が全て真実であれば、そうした厳しい評価もやむを得ないのだろうと思います。
ただ、直接に顔を合わせたことはありませんが、村上氏のお相手を務めたことがある者の見方としては、村上ファンドが証取法には相当に精通していたということについては疑いはありませんし、初歩的なインサイダーを「うっかり」犯すほどにはアマチュアではなかっただろうとは思います。
真実は「藪の中」ですが・・・個人的には、全体の画として見えてくるのは共同買付で、本質的には、大量保有報告書開示とか公開買付規制を免れて支配権をとったという話であって、この件はインサイダーの話ではないのかな、と。ただ、そうすると罰則が軽くなってしまうので、訴追側としてはインサイダーに引っかけたい気持ちも分からないではないんですが・・・

(※4)問題があるとすれば、公判段階での証拠固めのために捜査活動が公判になって起訴前に会社を事実上活動停止に追い込んだり、被疑事実とは全く関係のな い証拠が大量に収集されて、それをベースに第三者に捜査の手を伸ばしたりという専ら捜査段階の話です。

(※5)ジェット・ストリーム・アタックについては以下のエントリーをご参照下さい。ちなみに、最後の磯崎さんのエントリーにある「ひとりジェット・ストリーム・アタック」は可能ですね

Posted by 47th : | 22:38 | Securities

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コメント

あら懐かしや、ジェットストリームアタック(^^;)。
いずれにしろ、「改正証取法改め金融商品取引法と会社法以前の世界」のお話とそれ以後のお話がこの一件を境に関係当事者の意識も新たに取り扱われることになるのかどうか・・・なんだか結構混乱が残るんじゃなかろうかという気がいたします。
そしてしばらく皆さん新法と旧法の世界であっち行ったりこっち行ったり・・・。
47thさんは戻られたら結構そういうお話で時間をとられてしまうのではなかろうかと・・・余計な心配をしております。
コメントありがとうございました。

Posted by ろじゃあ : 2006年06月07日 01:50

核爆弾投下

Gyaoでやってる AERAの大鹿って人の話 もしかしたら、この国の未来を
変えるかもしれない。  今、この国の未来がどちらに向かうかの瀬戸際なんだ。
みんな。。  各自よく考えて、そして選択してくれ。。 この国の未来を。。
日本の未来を。。><
http://www.gyao.jp/sityou/catedetail/contents_id/cnt0014078/

LDの捜査であれだけ大騒ぎしてまともな企業を死刑宣告したのに、でてきたのは法解釈によって白黒微妙な粉飾だけ。
それにあせった地検は金融庁や証券監視員は辞めとけといったのに村上にも手を伸ばし逮捕を強行。

そしてもうひとつお願いがあります。。
おまいら大鹿を全力で守れ!! 頼む!! 守ってくれ!!

Posted by jun   : 2006年06月07日 04:31

はじめまして。
いつも専門家としての貴重な意見、大変参考になります。

さてさて、村上氏のインサイダー取引の件ですが、
GYAOでノーカット放送している会見を見たところ、そのなかで村上氏は

「今後争うのか」という質問に対して、
・ミステイクはミステイク。ただ、検察には将来に禍根を残さないようにしてほしい、と伝えています。私の事件については、立件され確実に判例が出るでしょうから、どのような話を聞いたらインサイダーになるのかをはっきりさせてほしい。何でも話を聞いたらインサイダーになったら、将来に禍根を残しますから。

とか、「コンプライアンスについては注意していなかったのか」という質問に対して
・普通の会社だったら役員から「買収、やりましょう」なんて話を聞いたら、間違いなく「社内コンプライアンスにかけます。でも、話をしたのはライブドアでしょう。いつもイケイケの宮内さんでしょう。だから、彼から「買収しましょう!よろしくお願いします」といわれても、それがインサイダーになるなんて思ってもみなかった。

といった話をしていました。
ですので、私は村上氏は検察に「私は確かに話を聞いたけれども、私が聞いた情報程度でインサイダーなのかい!!」というけんかを仕掛けた、ととっています。

検察のリーク情報が大量に出ているのは、
おそらくその辺を敏感に感じ取って、のことなのではないでしょうか?

Posted by とむら : 2006年06月07日 13:50

>ろじゃあさん
この2年間外にいたのが、いいタイミングだったのか、悪いタイミングだったのかは、何とも難しいところですが、そろそろ修羅場に戻る心構えをつくらないといけませんね。
>junさん
2chには疎いんで、こういうのには、どうリアクションするのがいいのかよく分からないんで、すみません
(笑えばいいと思うよ、とか?)
>とむらさん
nanasiさんへのお返事でも書きましたが、今回はLDと違って、上場廃止とか一般株主への被害といった話がないので、ここまで来たら、あとは村上氏のお手並み拝見というところですね。
私も、彼の戦意はなくなっていないと思いますよ。

Posted by 47th : 2006年06月07日 20:13

 
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