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インサイダーとネット社会?

昨日の記事について、弾さんから「サイバースペースにおけるインサイダー定義の憂鬱」というTBをいただいたですが、その中で面白い話が。

問題は、何をもって「あなたしか聞いてない」のか、「一般株主も聞いているのか」が判定されるか、にあります。
例えば、上の製薬会社の社員が、このことをblogに書いた場合はどうなのか、SNSに書いた場合はどうなのか、ということです。
例えばblogの場合。これはblogという不特定多数、すなわち一般株主も見れる場所に書いてあるのだから、書かれた時点でインサイダー情報にな るのかならないのか。そしてSNSだったら、基本的にはインサイダー情報だけれども、それが書かれたのが日記ではなく株主コミュニティだった場合どうなる のか?

まず、問題を整理すると、ひとたびインサイダー情報になった情報は、(インサイダーではなく)上場会社自身が一定の定められた方法で公表措置をとらない限りは、たとえテレビのニュースで広められてもインサイダー性は解除されません。この一定の方法というのは、大きく分けると、①臨時報告書など証券取引法所定の開示書類の登録、②新聞など報道機関に対する公表、③取引所を通じた開示(東証の場合はTDNet)に分かれます(※)。
逆にいうと、自社のホームページにプレス・リリースを掲載しても、そのプレス・リリースが報道機関や取引所に渡されなければ「公表」にはなりませんし、マスコミにスクープされ全国版のニュースで報道されても会社自身が正式な開示をマスコミに行っていない限りは、たとえ日本中の半分が知ることになっても、依然として「未公表」事実です。

というわけで、「公表事実かどうか」=「インサイダー情報かどうか」というレベルでは、その情報がどの範囲に開示されたかは問題とはならないわけです。
上のルートで開示されていない重要事実は、全てインサイダー情報です。

では、(それが摘発されるリスクがどの程度あるかはひとまず措いておいて)掲示板やブログに書き込まれたインサイダー情報を見て、取引をしたら即インサイダー取引かといえば・・・ネットを通じた情報取得という面では、「重要事実の伝達を受けた」という要件との関係がポイントです。


手元に全く文献がないんで記憶だけが頼りになりますが、とりあえず私の記憶の範囲では、この問題について直接に論じられたものは思い浮かびません。

ただ、インサイダー取引は「故意犯」ですから、インサイダー規制で罰せられるためには、少なくともその情報を「発信」している人間がインサイダーであることの認識は必要でしょう。
具体的な素性まで知っている必要はないでしょうが、いきなり掲示板に名無しで「明日○○の発表があるよ」と書かれただけでは、書き込んだ人間がインサイダーであるという認識を持っていたと検察が立証するのは、なかなか難しいものがあります。
一方で、この辺りは程度問題で、そのIDでそれまでにも何度となく書込がなされて、いやに特定の会社の内部情報に詳しい上に、書込の内容の信憑性が高いということになると、「社内の人間ではないか」という推測が強く働いてくるでしょう。
ブログになると、実名を公表していなくても、一連の記事の内容などから、何となく素性が分かる可能性は更に高まるでしょうし、mixiになれば、素性は更に明らかになってきます。

そういう点からすれば、ポイントは、ネットにおける「情報発信者の匿名性の程度」ということになるんではないでしょうか。これが強ければインサイダー規制には、ひっかかりにくくなるわけです。

もう少し別の角度で見てみれば、これはネットにおける「情報の価値」ということとも関係しています。
ネットにおける情報というのは、同じ内容でも同じ価値であるとは限りません。むしろ、情報の頒布コストが極めて低いという性質から、質の悪い情報が出回る可能性もそれだけ高いわけで、受け手側は情報の真実性や信頼性を割り引いて評価せざるを得ません。
なかでも「情報源の開示」がなされているかどうかは、決定的に重要なわけで、匿名性が高い情報というのは、それだけ信用されず、客観的にみれば、どれだけ有用な情報でもその価値は低いわけです。
この情報にのって売買する人はいるかも知れませんが、これを処罰する必要性は高くはありません(※2)。

というわけで、何となく考えるべきファクターは見えてくるんですが、どの辺りが「境界」になってくるのかは、今の時点では分からないところです。

ただ、これはネット固有の問題というよりも、そもそものインサイダー情報を巡る法規制のバランスが上手くとれていないところにあるような気もしています、が、今日は眠くなってきたので、この辺りで。
 

(※)興味のある方のために適用条文です。

証取法166条4項

第一項・・・の公表がされたとは、・・・当該上場会社等・・・により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は・・・第二十 五条第一項に規定する書類[注:有価証券報告書や臨時報告書]・・・が同項の規定により公衆の縦覧に供さ れたことをいう。

証取法施行令30条

・・・上場会社等・・・により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこととは、次の各号に掲げる措置のいずれかがとられたこととする。

一・・・上場会社等・・・を代表すべき取締役・・・が、当該重要事実等又は当該公開買付け等事 実を・・・報道機関に対して公開し、かつ、当該公開された重要事実等又は公開買付け等事実の周知のために必要な期間が経過した こと。
二・・・上場会社等が、・・・各証券取引所・・・の規則で定めるところにより、重要事実等・・・を当該証券取引所に通知し、かつ、当該通知された重要事実等・・・が、・・・当該証券取引所において公衆の縦覧に供されたこと。

会社関係者等の特定有価証券等の取引規制に関する内閣府令第4条の5

・・・証券取引所・・・は、電磁的方法により、当該通知を受けた重要事実等又は公開買付け等事実を公衆の縦覧に供するものとする。

(※2)まあ、インサイダー取引が詐欺か何かと同じレベルで考えられてしまうと、徹底的なインサイダー取引の弾圧がなされる可能性はあるんで処罰されてしまうかもしれませんが・・・

Posted by 47th : | 00:20 | Securities

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トラックバック時刻: 2006年06月08日 01:02

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トラックバック時刻: 2006年06月08日 15:48

コメント

> これを処罰する必要性は高くはありません
こういう、コスト効率みたいな考え方って、僕にはとても好ましいと思えるのですが、駐車違反の摘発(田舎の広い裏路地で夜中でも捕まる)とインサイダー取引の摘発では違った適用がなされているのでしょうか。
摘発する係が違うから?

Posted by tockri : 2006年06月08日 03:03

報道機関は複数でないと駄目ですよね。
生放送番組で「上場会社と契約関係にある者が口を滑らせて言った言葉(たとえそれが風説の否定であっても)をたまたま聞いてしまった」場合でもインサイダーの可能性があるのではないでしょうか?(放送機器や通信機器を介していればインサイダーではないというわけではなさそうですし。)
 この件について企業はわざわざ(日曜日に!)「適時開示情報」を出していました。
http://d.hatena.ne.jp/kumakuma1967/20060603#p3
http://d.hatena.ne.jp/kumakuma1967/20060604#p1

Posted by kumakuma1967 : 2006年06月09日 20:42

 
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