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誤発注問題を裁判所はどう裁くのか?

みずほ証券、株誤発注で東証に404億円請求(asahi.com)

東京証券取引所の西室泰三社長は22日、昨年12月のジェイコム株の大量誤発注に絡んで407億円の損失を出したみずほ証券から404億円の損害賠 償を求められていることを明らかにした。みずほは、9月15日までに賠償に応じなければ訴訟に踏み切ると通告しているという。東証は賠償に応じない方針 で、前例のない大量誤発注をめぐる損失負担問題は、裁判所の判断に委ねられることが確実となった。東証と証券会社が法廷で争うのは初めて。
・・・みずほは、1回目の取り消しが受け付けられていれば損失は3億円で済んだと計算し、404億円の賠償を求めたとみられる。
一方、東証は、証券会社など取引参加者をめぐる内部規定で、東証を利用した業務で参加者が損害を受けた場合、「故意または重大な過失がなければ東証に賠償の責任はない」とされていることから、「システムの不具合は重過失にはあたらない」として賠償を拒否している。

証券会社が取引所を訴えるというのは、興銀が国税に訴訟を提起したとか、住友信託がUFJを訴えたときのような、時代の変わり目を象徴している出来事のような気がするわけですが、この件についてもっとも興味深いのは、これを承けて裁判所がどういう座標軸の下で判断を下すのか、という点でしょう。

引用した記事によると、訴訟での焦点は、「重過失か否か」という、言葉だけ見れば非常に伝統的な法的紛争なのですが・・・「(重)過失」というのは、「ある種の対応をとる『べき』だったのに、それをしなかったこと」であり、この「あるべき行動」とはどのような行動であり、そこからどの程度逸脱すれば法的に責任が生じるのかという部分を画定しなければ、法的責任に線をひくことはできません。

下の関連エントリーであげたように、この問題については、かつてどのような制度設計をすべきだったのかについてローエコ的な観点から検討したことがあるのですが、私自身は証券市場の設計やそこでのリスク負担というのは、経済的分析、とりわけインセンティブ問題ということを相当詰めて考える必要があると感じています。

果たして、日本の裁判所はどの程度この問題に踏み込んだ判断をするのか?
あるいは、そもそも当事者はどういう方向で主張・立証を展開していくのか?

今後、一つの裁判の結果が制度設計的な部分にも影響を与える訴訟というのは増加していくのだと思うのですが、そうした訴訟に対して日本の司法制度がどう対応するのか・・・といっても、抽象的かも知れませんが、個人的には今後とも目が離せない訴訟になりそうです。


Posted by 47th : | 17:29 | Law & Economics

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コメント

こんにちは。

あってしかるべき裁判ですので議論がつくされて今後のわれわれの財産となるような判決が出るのを期待したいところです。

システム屋からはこの一件はつまるところ関連した「システムの不具合」がどれほどのレベルのもので、導入時のシステム監査等によってどの程度回避できる質のものであったか否かが徹底的に検証されることになるのではないかと思いますが、仮に一般的にいってそれが初歩的な不具合であったとしても(初歩的だっただろうと踏んでいるから訴訟に踏み切ったというところもあるでしょう)東証トップの面々とこれまでのシステムの-robustness-頑強性(嫌味?w)の歴史をみてそれを忌避できたとは想像しにくいので、東証だからといって当然に楽な戦いになるわけではだろう、ご指摘の通りで、かつてはなかった時代の境目の裁判に共通する困難さが生じているだろう、と思われます。

そもそも現代に生きる我々にとって「システムの不具合」とは臨時休業から不意の有給取得に至るまで、あらゆる場面で使われている「免罪符」となっており、有力な言い訳のひとつとして機能していますが、本件でこれが法的になんぼのものと値踏みされることになるのか、具体的には、そうした免罪符で逃げ切られそうになった被害者が「バグのないシステムはありえない」というコンピュータ社会を根底から支えるイロハのイの字の常識にどこまで挑戦し賠償を獲得できることになるのか、そうした点に注目したいと思っています。ですので、判決次第では金融・証券各会社のCTO(最高技術責任者)の地位が相当程度上下することになるかもしれない、ご指摘の通り広い影響力の予想される裁判となりそうですね。

「システムの不具合」で免責されないということで証券会社側に有利な判決が出れば、ろじゃあさんやtoshiさんがココロ○を訴える準備を始めるかもしれませんし。こっちの方が請求額が大きかったりして(笑)。


Posted by bun : 2006年08月23日 05:19

47th様

はじめまして、29ch(ふくちゃん)といいます。

勤務先が何代か前の東証のシステム開発に携わっていたことがあり、本件についてはとても他人事とは思えません。直感的には重過失の壁はかなり高い気もしますが、本件がどう転ぶにせよ、今後、システムベンダーにとってますます契約が不利になっていくでしょうね。そんな契約書をレビューするのはなんか憂鬱だなあ。。すんません、駄文で。


bun様

「システム不具合=免罪符」の件では、本質の一端をすごく絶妙に分かりやすく表現されているように感じました。感服いたしました。

Posted by 29ch : 2006年08月23日 08:58

>bunさん
システム開発の観点からみると、システムの無謬性の幻想が争点と映るのかも知れませんが、個人的には、システムのエラーを所与とした上でのリスク負担のあり方や、システム外での対応がポイントになってくるような気がしています。
問われるのは、みずほ側の(実際にはあり得ない)バグのないシステムへの信頼ではなく、東証側が(実際にはあり得ない)バグのないシステムへの信頼に安閑としていたかどうかなのかなという気がしています。

>29chさん
はじめまして。
bunさんへのコメントにも書きましたが、みずほ証券がシステム開発を担当した企業を共同被告としないとすれば、争うとしているのはシステムのエラーの部分ではなく、エラーがあった場合のシステム外での対応の部分ではないかという気がしています。
確かに、その先には、仰るように、システム外のエラー対応の部分を含めて、ベンダーとクライアントの間でどういうリスク負担をやっていくのかという問題はあるんでしょうね。
これからも宜しくお願いします。

Posted by 47th : 2006年08月23日 13:50

>問われるのは、みずほ側の(実際にはあり得ない)バグのないシステムへの信頼ではなく、東証側が(実際にはあり得ない)バグのないシステムへの信頼に安閑としていたかどうか

なるほど、そういうことでしたら私が半ば諦め気味に想定していたレベルの裁判より高度でしかるべき検討に重点がおかれた裁判になりますね。そうなって欲しいんですがしかし本当にそうなってくれるんでしょうか。ちょっと疑ってます(笑)。「無謬を前提に争いが定義されているがそれはあり得ない」と主張して勝とうという、実は論点がずれている勝ち方が狙われているような気がして仕方がないんですが。

29chさん、お褒めにあずかり光栄です。今回はちょっと怒られてしまってますが(笑)、またお願いします。どんどん批判もして下さい。

Posted by bun : 2006年08月23日 19:16

>bunさん

怒ったりしてませんよぉ。

>「無謬を前提に争いが定義されているがそれはあり得ない」と主張して勝とうという、
>実は論点がずれている勝ち方が狙われているような気がして仕方がないんですが。

実際問題としては、そういうシナリオも被告側としてはありだと思いますし、それだけに原告側と裁判所がどう対応するのかが興味深い気がします・・・まあ、でも和解で終わっちゃったりするかも知れませんが・・・

Posted by 47th : 2006年08月24日 10:58

>問われるのは、みずほ側の(実際にはあり得ない)バグのないシステムへの信頼ではなく、東証側が(実際にはあり得ない)バグのないシステムへの信頼に安閑としていたかどうか

なるほど、そう読むのですね。東証のコメントはうまく論点をはぐらかしていると。勉強になります。僕はまだまだ甘ちゃんですね。。

しかしまあ、だとすると、47thさん御指摘のとおり、みずほにとってはかなりタフな訴訟になるでしょうね。あるべき制度設計を論じきり、さらに東証のこれまでの対応をつぶさに検討し「安閑ぶり」を裁判所にアピールしきる。。
みずほが相当の覚悟をもってない限り、和解で終わっちゃいそうなきがします^-^;

ぴんとはずれのコメントに真摯にお答えくださいましてありがとうございます。嬉しいです。甘ちゃんですが、これからも勇気をもってコメントしたいと思います。では。

Posted by 29ch : 2006年08月25日 12:13

>29chさん

まあ、こういう限界ケースの訴訟になると、当事者の主張によっても全く争点は変わってきますから、私のも単なる憶測の域を出ないわけで、まあ、今後の展開に注目ということで^^

これからも是非遊びに来てください。

Posted by 47th : 2006年08月27日 14:03

 
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