« 利息制限法と借り手保護の微妙な関係(2) | メイン | マイクロファイナンス雑考(1) »

"Shleifer Affair"

ついこの前Harvard EconのShleiferのことを紹介したばかりですが、今日のLaw & Developmentの授業でShleiferのロシアの市場化に関連して米国司法省に訴えられて和解したという話をきいたので、早速ぐぐってみると、こんな記事が。

Russia Case (and Dust) Settle (Harvard Magazine)

USAID originally awarded a $40-million grant for the Russia project. The project, run by the now-defunct Harvard Institute for International Development (HIID), aimed to advise the Russian government on making the transition from a socialist to a capitalist economy. The court found that, while being paid by USAID, Shleifer and Hay engaged in prohibited investments and businesses in Russia. These actions (which are disputed by the defendants) included: Shleifer and Zimmerman’s investment of $200,000 through Renova-Invest, a U.S./Russian investment entity, in various Russian companies and Russian government debt; Shleifer, Zimmerman, and Hay’s purchase of several hundred thousand dollars worth of shares in Rus-sian oil companies (ownership of the shares was placed in the name of Shleifer’s father-in-law); and Hay and Shleifer’s help in launching and/or financing Russia’s first licensed mutual fund, started by Elizabeth Hebert, Hay’s then-girlfriend and current wife. They did the same for Russia’s first mutual-fund depository, started by Hebert’s business partner.

ということで、ShleiferとSachsが中心となっていたHIIDが司法省からロシアの市場化に関するコンサルタント業務を請け負っていた時に、Shleiferとproject directorであったHayがロシアに対する個人的な投資を行っていて、それがUSAIDとHIIDとの間での利益相反取引を禁じた契約条項に反しているという主張のようです。

実は、この事件については既にSummary Judgmentが出されていて、その中では故意は否定されたものの、契約違反に関してはHIIDとShleiferの責任が認められていたようです(オピニオンまでは読んでいないので、記事からの伝聞ですが)。もっとも、Shleiferが実際にプロジェクトに携わっていたかどうかは微妙という判断・・・まあ、でもチャイニーズ・ウォールをきちんとひいていたのであればともかく、直接携わっていないからいいでしょう、というのは、ビジネス業界でのconflict ruleからいうと、少しアレな言い訳ですが。

この結果、Harvardは26.5M、Shleiferは2Mを支払うことに合意したようです。但し、司法省の主張を認めたわけではなく、あくまで訴訟費用等を勘案してという和解の際の常套的な決着になっています。

ところで、この話は、これだけでは終わらず、つい先日のHarvard学長のSummersの退任劇とも密接に関連しているようです。

Lawrence Summers Quits as Harvard President in Advance of New No-Confidence Vote; Derek Bok to Step In

Chief among them was to be a motion to censure Mr. Summers for his role in what has become known as the "Shleifer affair," the professor said. Andrei Shleifer, a prominent Harvard economist and personal friend of Mr. Summers, was a defendant in a lawsuit alleging that he and a former staff member had defrauded the U.S. government through a program intended to help Russia make the transition to a market economy.

Harvard defended Mr. Shleifer throughout the litigation and last August agreed to settle the case by paying a $26.5-million penalty. Mr. Shleifer has never been disciplined by Harvard, and in fact was awarded a new chair during the litigation, said the professor who spoke to The Chronicle. As a result, Mr. Shleifer's relationship with Mr. Summers has drawn increasing criticism. The professor said the combination of the penalty and legal fees had cost Harvard $44-million.

最初の記事にも書かれていますが、SummersはShleiferの恩師的な関係にあって、Shleiferをバックアップした結果、44Mの損失をもたらしたという辺りが退任・・・というか放逐劇の重要なポイントになったようです。

まあ、だから何だというわけではありませんが、思いつくままにコメントを。

  • 政府が一大学にロシアの市場化プロジェクトを依託するというところに、まずびっくり。Harvardをはじめとした一部の大学だけだとは思いますが、現実の国家的プロジェクトを運営するだけの組織力とか運営力が教育・研究機関にあるというのは、さすがアメリカというところでしょうか。
  • 更に、司法省がその大学を訴えるのがびっくり。
  • 経済学者が、実際に自分の専門分野で身銭をきって投資をしているというのがびっくり。LTCMもそうですが、そりゃぁ、自分の財布がかかっていれば、いやでも真剣になりますよね。経済学が発展する理由も何か分かるような気がします。
  • でも、それを自分の所属する研究機関が請け負っているプロジェクトに関連してやる辺りがびっくり。ただ、裁判所の認定は「意図的」なものではなかったということで、直接にプロジェクトの情報を利用したと主張されているわけでもないんで、おそらくは、コンフリクトに関する感覚の問題なんだろうという気もします。
    まあ、この辺りは研究機関らしい脇の甘さ、というか、ウォール街的なチャイニーズ・ウォールをひいていれば、また結論は変わったような印象です。
  • 個人で和解で2M+訴訟費用を払える財力・・・アメリカの学者は、やっぱ儲かるんですね・・・
  • そもそも、司法省に訴訟を提起された時点で、日本だったらShleiferの「社会的地位」はどうにかなりそうなものですが、いくらSummersのバックアップがあったとはいえ、こういう機会でもなければ気づかないぐらいに元気に活動しているという辺りが、リベラルというか、アメリカだなぁ、と。

何かしょうもないコメントになってしまいましたが、個人的には結構面白い話でした。


Posted by 47th : | 11:25 AM

このエントリーのトラックバックURL:
http://WWW.ny47th.COM/mt/mt-tb.cgi/275

コメント

こんにちは。まず、私は単純な反米でないですが、

>a program intended to help Russia make the transition to a market economy.

の中身が気になりました。

「ヒルトン(ドル回収機関(笑))とマクドナルド(ルーブル回収機関(笑))を作りましょう!」

じゃないでしょうね?(笑)。それはmarket economyというよりはむしろ"American" market economyなんですが。国際基軸通貨の強みがない国で、そのまま真似してもアメリカの国益を支えるだけでロシアのためにならないのではないでしょうか。とりあえずの売り物は資源なので、もっと資源で食べている国のhow toを聞いた方がいいと思います。まずロシアが自国をどのような国にしたいかありきで、それによって話を聞くべき国が違うんではないかと思うのですが、反面、

>現実の国家的プロジェクトを運営するだけの組織力とか運営力が教育・研究機関にあるというのは、さすがアメリカというところでしょうか。

とご指摘の通り、こういうアドバイスの求めに即座に応じられて契約が交わせるのはほとんどアメリカの大学のみ・・・日本の大学もですね、近年の行政法人化の流れに沿っていろいろ産官学連携の話がもちあがるんですが、現場・省庁その他多数の利害関係者が寄ってたかって、結局はからずも話をつぶすことも少なくないんですよ。大同小異でとりあえず話をまとめておいて、相手との契約を終わらせてから内輪で喧々諤々もめればいいんで、アメリカはその辺の芝居が実にうまいんですが、日本はまるでダメ。こんなところでそれを言うなよという「内部告発」が出て(笑)、何度「あーあ。せっかくのお話なのに」と思ったことか(笑)。自分がパイに預かれなくなったと知るや昔取った杵柄のカミカゼアタックで話をつぶしにくる「老大家」も少なくないのです(笑)。

>経済学者が、実際に自分の専門分野で身銭をきって投資をしているというのがびっくり

身銭を切っている人がやる学問とそうでない人の学問は全く別の学問だと言ってもいいと思います。しかしながら私はいまだに不思議なのですが、リスクを取って結果を出している人の話だからといってその分耳を傾けるかというと「あっそ。自慢話は終わったかい?」なんですよね。講師とか教授の資格としてリスクを取った経験の有無を全く問わない。いやむしろ、リスクをとらずに今の地位を築けているところに敬意を抱いたりする(!)。アメリカではそんなのはただのstory tellerなんで、経済の限らずあり得ないことだと思います。

他方、日本のとある理系の学問の国際学会の話なのですが、アメリカ人の学者が突然スケジュールをキャンセルして自国のスタッフとの連絡に忙殺されたり国に帰ったことがありまして、理由を聞くと、「米国株式市場でクラッシュがあった」とのことで、この辺は「感心しませんな」と日本の理系の学者のみなさん口々に言っておられました(笑)。

長文失礼しました。

Posted by bun : February 27, 2006 09:00 PM

>bunさん
Harvardの経済学者主導によるロシアの市場化の試みの顛末は、丁度今授業でやっているので、また、折りをみてご紹介いたします。
アメリカと日本の学者観の差は興味深いところですよね。法学の世界でも、アメリカはかなり商売っけがあるのに対して、日本の学者の方の多くは、本当にストイックですから・・・逆にいうと、アメリカのように山のような関連文献を前に、まず「この論文は読む価値があるものなのか?」という疑問を感じることは少ないというところはありますね。(日本でも弁護士の書いたものは商売っけたっぷりなんで、選別が必要ですが(自爆))

Posted by 47th : February 28, 2006 08:35 PM

コメントしてください




保存しますか?

(書式を変更するような一部のHTMLタグを使うことができます)

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
このブログをご覧になる際の注意点や管理人の氏素性はこちらにありますので、初めての方はご一読を。